結局、腰を痛めたキリンくんの身体を支えて、保健室に行くことになった。昼休みが終わって、5限目の授業に遅れてしまうことを気にしてくれていたけど、わたしにとっては、キリンくんのほうが一大事だ。
「送り届けたら、すぐに戻っていいよ」
「いや、怪我させたのはわたしだし、最後までついてるよ!」
保健室の扉をトントンと、軽くノックして、わたしを追い払おうとするキリンくんを一蹴する。
引っかかりもなく、難なく開いた扉を抜ければ、そこにいたのは、養護教諭じゃなくて、よく知る人物だった。
「あら。黄林くんじゃないの」
「…綿貫さん」
綿貫毬子。イメチェン後のキリンくんを見て、一目惚れしたと、直接告白をしてきた人物。一度、きっぱりと振ったはずだけど、未だに好きなのか、吹っ切れたのか、真意が掴めない。
「どこか怪我したの?ちょうど、仕事もひと段落した頃だし、お手伝いしましょうか?」
ふわりと、花が咲いたように笑う彼女は、やっぱりかわいい。艶めく白い腕は、キリンくんの裾を握って、見あげている。
「綿貫さんに、そこまでしてもらう必要はない、というか…」
相変わらず、綿貫さんの大きな胸を目に入れると、タジタジになる。なんとなくわかってはいたけど、キリンくんって、むっつりだ。わたしのまな板みたいな胸には、全く興味を示さないくせに、巨乳には弱いのか。
「いいのよ。わたし、保健委員で、先生に頼まれていた保健だよりの下書きも終わって暇だったから」
保健委員だったのか。そういえば、毎月配布される用紙に、"綿貫"って名字も表記されてあった気がする。
「遠慮することないわ。先生によく留守を任されてるし、どこになにがあるのかもわかっているのよ」
綿貫さんの誘惑はとてつもなく強い。キリンくんは、背筋を無駄にピンと伸ばすと、彼女との距離を徐々に離していった。