……
……
……



目の前に広がるのは真っ黒な夜の海


ここに来たのは10年ぶり



「はっ、はぁ……ごほっ」



全力で走ったせいで息が苦しい


でもどうせ、またすぐ苦しくなるから



息を切らしながら
ためらわず海に足を踏み入れる


裸足のまま飛び出してきたせいで

足はあちこち擦り傷だらけ

海水がしみる



痛い

冷たい


だけど、もう引き返せない


ざぶざぶと奥へ進む



押し寄せる波は、ひざに、腰に、胸に


早くもっと奥に

もっと深くに


海水を吸った服は重たくて、思うように動けない



……今度こそ間違えない



ちゃんと死ぬ




そしたらきっと、あの人達は




幸せに、なれる




「っ、げほ……っ」



口の中に海水が流れ込んでくる



苦しい、寒い



もう、足もつかない




…………後はこのままー……




溺れ死ぬだけ