「文字数の理由で名前を呼ばないでください。

と言うか、無理して呼んでもらわなくても結構です」

私がそう言ったら、
「名前の方が何かと便利だし、そんなに口を動かさなくてもいいじゃないか」

宇奈月さんは言い返した。

「便利って…」

何かとの“何か”がよくわからない。

どうせ1ヶ月で同居生活は終わるんだ。

彼に名前を呼ぶメリットもなければ、デメリットもない。

「もう決めた。

君が嫌だって言っても、僕は君のことを“結香”と呼ぶから」

宇奈月さんは満足したと言うように首を縦に振ってうなずいた。

…こりゃ、何を言っても聞かないだろうな。

呆れながらコーヒーをすすったら、
「それとも、父親以外の異性に名前で呼ばれるのは初めてか?」

宇奈月さんがそんなことを言ったので、コーヒーを吹き出しそうになった。