梅雨が明けて初めて迎えた日曜日のことだった。

この日、私は高級ホテル『エンペラーホテル』の中にいた。

「結香、本当にいいの?」

電話越しから心配そうに声をかけてきた母親に、
「いいって言ってるじゃない。

私、もう25歳だよ?

ここら辺でもう身を固めなきゃ」

私は言い返した。

「相手はお父さんの知りあいの社長さんなんだし、心配ないって」

母親を心配させないように明るく言ったら私に、
「もし会ってみて、嫌だったら断ってもいいからね?

お父さんも急がなくていいって言ってるし」

母親の心境は代わらないみたいだ。

「わかってるって。

じゃあ、もう時間だから切るね」

私はそう言うと、スマートフォンを耳から離した。

指で画面をタップして通話を終わらせると、スマートフォンをバックの中にしまった。