最初に一回弾いてみてと言われて、弾いてみせると、晃太くんは

「すごいね、ハルちゃん、練習したんだ!」

 と、驚いたような声を上げた。

「あの……練習って程はできなかったのだけど、少しだけ……」

 一日十分を一週間頑張ったって、合わせて一時間にしかならない。

 練習したと言えるレベルではないよね?

 驚かれて、逆に恥ずかしくなる。

「いや、でも、弾いてたよね?」

「……一日、十分とか十五分とか、ホント、それくらいだけど」

「毎日?」

「うん」

 頷くと、晃太くんは嬉しそうに笑った。

「教えたところを練習したんだよね? 続きは?」

「そこまではできなかった、です」

 ごめんなさいという気持ちを込めて言うと、晃太くんは、

「了解。全然問題ないよ。じゃあ、もう一回弾いてみて」

 と優しく言った。



 ピアノを教えてもらった後で、一緒にご飯を食べながら大学の授業の話をした。

 食事の後、求められるままに、一番最近、山野先生にもらった課題を見せると、晃太くんは早速、プリントを読み始めた。
 珍しく怖い顔の晃太くんは、眉根を寄せたままにプリントをめくる。

 課題のプリントにはキーワードにマーカーを引いていたり、ちょっとした言葉を書き込んだりしていた。
 そんなに変なこと書いてしまったかと思って、焦っていると、数分後、

「……ハルちゃん、これやってるの?」

 と晃太くんは幾分こわばった声で言った。