お風呂上がりに食堂を覗くとカナが帰ってきていた。

「おかえりなさい」

 カナは夕飯の途中なのに、お茶碗とお箸を置くと立ち上がって、わたしのところに駆け寄ってくる。

「ただいま、ハル」

 それから、カナにギュッと抱きしめられる。

「いいにおい」

「お風呂上りだから」

「……あ、オレ、汗臭くない?」

「全然」

 それから、  

「空手、楽しかった?」

「ピアノ、楽しかった?」

 二人同時に言って、思わず顔を見合わせて笑う。

 ひとしきり笑ってから、カナが最初に答えてくれた。

「いい汗かいたよ。今日は黒帯の先輩が二人来てて、オレいらないんじゃないかと思ったけど」

 カナに促されて、カナの隣の席に座る。

「黒帯の先輩たちと淳と、割と真面目に組み手やって来た」

「わあ、見たかったなぁ」

「う~ん。結構激しかったし、ハルはいなくてよかったかも」

 カナは笑いながら言う。

 見てみたかったのは本当。だけど、カナがわたしがいないことでのびのびと楽しめたのなら、それで十分嬉しい。

 話しながら、カナの前のご飯はどんどん片付けられていく。

「ハルも教えてよ。ピアノ、兄貴、ちゃんと教えてくれた?」

 カナはからかうように言う。

「うん。……えっとね、わたし、全然上手に弾けないんだけど、でも、すごく楽しかった!」

「そっか。よかった。今度、聞かせてくれる?」

「うん。えっと、もっと弾けるようになったら、ね?」

「楽しみに待ってるね」

 カナの言葉に頷いたけど、考えてみたら、一日のほとんどをカナと一緒にいるのだから、練習しようと思ったら、聞かせるつもりがなくても、カナに聞かせる事になっちゃうんじゃないかな?