何か突然の事に驚いたりしたけど…すぐに分かったのはこの場に樹がいるということだけだった。


けどだんだんと今日の出来事が頭の中に浮かんで、浮かんで。

するとそれと並立するようにあたしの口は固く閉ざされて何も発しようとしなくなる。


…嫌だ嫌だと、言っているのかも。


「機嫌、悪いんだってね?」

指先だけであたしの髪に触れると樹は言った。


そんな久しぶりの樹の仕草一つに変に心と身体が反応しちゃうよ、


「べ…別に」

泳ぎだす視線をユラユラとさせてそう曖昧に答えちゃうこの悪い癖は今も継続して直ってないみたい。


するとちょっと不満そうに樹が言う。

「ふぅん」

ふと下げ気味だった顔を上げて間を見据えると微量の甘い香りがあたしの鼻に突き刺さってきた。


…アレ、?

この匂いって、もしかして女物じゃない??


しかもこの香水ってなかなか匂いが取れないから…前に美菜が良いって言ってたような気がするような、しないような。

でも喫茶店で確かこの匂いを嗅いだような気がする、


そして脳裏に浮かんでくるのは。

どうしてこの匂いが樹からするのか…だった。


だって、だって。