「けどチョコ食べてるのあたしだよ?」

そう言うと、樹はハァッと嫌そうに溜め息をついてから、


「だって愛梨好きでしょ?甘ったるいの」

と淡々と言って言葉を吐き捨てる。


「追いかけ回されるのかなぁ…」

樹にしては深刻に悩んでいるのは、何だか一年に一度のこの時期だけのような気がする。


し・か・も!!



樹の場合は誕生日が2月10日の、まさにバレンタイン真っ盛り!


「誕生日も近いしね…?」

「……。」

無言であたしのことをチラッと見ると再び大きな溜め息を吐いて、そのまま掛け布団の中に潜ってしまった。


つまりあの冷血、氷の王子様こと矢上樹君の苦手な行事は多分…

どんなに探してもこのバレンタインなんだと思う。


あと2、3日でもしたら2月に入っちゃって…それで気が付けば節分が終わって、あっと言う間に樹の16歳の誕生日がきて。

それで、バレンタイン?


……樹、可哀想。


「樹?…その、少し元気出して?」

頭まで毛布とかタオルケットとか、そういうのを頭までかぶちゃってるから、本当に寝てるのかも分かんない。


「いーつーきー…?」

ペロッと捲って中を覗いてみると、『何?』と鋭い目付きでコチラを睨みつける樹くん。



「…な、な!!何でそんなに不機嫌なの?」

「別に…」

いや、明らかに樹は不機嫌だ!!


そう思って背を向けたまま不貞寝する樹の肩を指でツンツンと突く。


「ねぇ?いっちゃーん………って…っ?!」



─グイッ!

引かれて視界がグラついた瞬間、ドサッと倒れる。