ベッドをバシバシと叩いてひたすら捻くれた顔をするあたしを、樹はまだ笑いながら見てる。
樹がすっごい焦ってる顔とか…?
すっごいすっごーい感情を剥き出しにしてるところなんて一度も見たこと無いよ?
「だって離れないでしょ?」
真顔でそう言われると…何か、不貞腐れながらもコクンと縦に頷いてしまう。
「…それに、嫌って言っても離してやんない」
猫みたいにあたしの髪を寝たまま指に絡め、甘えたような瞳をあたしに向けてくる樹。
本当にこの人って不思議な人だなぁ…っていっつも思う。
何を考えてるのかも分からないし、突然行動多すぎだし、気分屋さんで本当に猫みたいなミステリアスな人。
「嫌なんて……言わないもん」
けどそんな余裕な樹にプイッと視線を逸らしながらもそういうあたしは、本当に可愛くないなぁって。
思うんだよね。
「ていうかもうすぐ…アレだね、」
絡めた指から少し力が抜けてポトッと枕の上に落ちる。
それでもって、
樹の表情は一瞬で嫌そうな、…なんとも言えないような顔つきになって、目を閉じる。
きっと樹のいう“アレ”とはきっと。
「……バレン、タイン?」
とあたしが控え目に聞くと、『ん』と短くだけ頷いた。
「バレンタイン……怖い。」
ポツリと呟くと頭をクシャクシャとした。
樹の言う。
バレンタインが怖いというのは…多分。
毎年のように貰う大量チョコと女の子たちの形相に、いい加減樹は嫌気が差したのか何なのか…
それとも嫌いな甘いチョコが嫌なのか。
でもその断りきれなかったチョコを食べるのは樹ではなく、この私です。