やっぱり白井くん…
そんな僅かな想いが頭の中を過っていった。
「彼女っつっても…覚えて無ぇーし、記憶に無ぇわ、
それより何だよ、マジで俺に惚れた?」
ニタニタと笑うその表情は、もう見慣れた表情で。
まるでさっきの曇った空白感を含む表情なんて、全く感じさせなかった。
けど…やっぱり変だよね。
「覚えて無いって、付き合ってた人を?」
気になったら何でもすぐ聞いてしまう。
どうして?
何で?っていつも。
それが悪い癖なのか、…それとも良い癖なのかは分からないけどね。
だけどいつも……
樹が相手になると、本当になんにも聞けなくなる。
言葉が詰まって。
どうでもいい事はよく聞くくせして…肝心な所はいっつも。
それで、
勝手に行動して勝手に変なことに巻き込まれて…
けど最後にはいつも。
いつも……
助けてくれたのは樹だった。
「惚れたのかって聞いてんのによぉ…」
ちょっと不満そうに眉を寄せてから、
「…で、何だっけ?
付き合ってた女?んなの覚えて無ぇけど……
……まぁ」
そこまでで言葉は途切れる。
その途切れた先の言葉が聞きたくて、無意識に隣をチラッと見てみれば…それは前に見たことのある。
─遠くを見つめる彼の悲し気な横顔。
「……“彼女”って形になった女は…一人だけだったけどな」
ボソッと聞こえたその小さく呟くような声は。
きっと何よりの気持ちの表れだった。