少し遠のくような薄れた意識で、教室の外れたドアを通り抜けて出て行く…白井くんの背中を見つめた。


あの人。

なんなんだろう…


でも、どう考えたって非常識で、ただの変…変態?


そんなことを頭の奥のその片隅で考えていると急にコツンと頭を叩かれる。

「お前、…馬鹿でしょ?」

頭上から聞こえるその声の主の顔を下から覗き込めば、その表情は凄く曇っていて…不機嫌なのが良く分かる。


いつもなら『馬鹿じゃない』と、そう言えてたのかもしれない。


けど…

今のあたしは、正真正銘。


本物の馬鹿だったりする……


「ごめん、なさい…」

自分のこの突拍子も無い行動が引き起こした、こういうこと…を。

考えると妙に情けなくって、上手くちゃんと樹の顔を見ることが出来なくて顔を背けるように、ただ下を向く。


本当…あたし、馬鹿だよぉ。

仮にも相手は男の子で、それに…オオカミみたいな人なのに。


「ごめんじゃない」

そう言った樹の声音は微量の怒りと、安心と…そんなものが含まれてて、


言葉を発しようとした瞬間。

あたしの身体は包まれて、取り囲むその薫に頬を擦り寄せる様にして静かに瞳を閉じた。


「…ごめんなさい」

ただそう言うしかなくて、そう言うことで…少し自分自身も安心感に浸ることが出来たのかもしれない。


「何された?」

見上げた視線が絡まってそう聞かれて、思わず心臓が騒ぐ。