樹に口を塞がれてるせいで言葉が出せずに、もがく。

そんなあたしを嫌そうに見ながらも樹はその手を離して言った。


「…うるさいと塞ぐから」

するとそのままあたしを置いて一人で歩きだしてしまう。


道路にポツンと置いてきぼりにされたあたしは、…何だか哀しいと言うよりも虚しいの方が性に合ってると思う。


「ちょ…っ!」

追いかければその背中はピタリと動きを止める。


「…っ痛!!!」

そのせいで今度はその大きな背中にあたしの顔はぶつかり、鼻の奥の奥がツーンとする痛みに襲われて目を潤ませる。


「痛い……う…っうぅ」

鼻の頭を押さえてギュウッと目を瞑っていると、すぐ上に感情の読み取れない樹の表情。


「なんか、嫌なこと起きそう」



え?


あたしの心配とか…してくれるんじゃないの?

そんな不満を含むこの考えを、頭の中でグルグルと渦巻かせてみてみると。


「みずがめ座、最下位だったし」

そうまた一言だけ言い残すとあたしをチラッとだけ最後に見て、そのまま背を向けて歩き出してしまう。


朝の樹はよく分からない時がある。


寝ぼけてるのか…?

それとも何なのか、分からないけど…


ちょっと樹は天然な所がある、本人の自覚症状なしだけど。


そして今日から新学期が始まる。



そしてそして!

この樹の『嫌なこと起きそう』発言の行方は…とんでもなく、とんでもないものだったわけで。