「愛梨」

不意に呼ばれた名前に対して振り返る前に、あたしの視界はグラリと動いた。


……っ!?

唇に触れたままの指は、あたし同様に驚いたのか…そのまま動きを止めてボーっと目の前にいる樹を眺めている。


ベッドに押し倒されたまま目をパチクリと何度もさせて。


「…い、…樹っ…??」

妙に唇は乾いてて、あたしの緊張そのものを表してるみたい。


「俺、心広くないから」

ニヤリと悪戯な笑みを浮かべてから、そのままグッと距離を詰めて接近する。


目をギュッと閉じて、無意識にも手が唇から離れる。


「こう?」

瞬間、唇に生温くザラリとしたモノがスーッと線を引くように動いたのが分かって、…あたしの顔は火が付いたようにボッと熱くなる。


その樹の『こう?』という言葉で、

あたしはさっきの失言にやっと気が付くことが出きた。


「…ん……っ…!」

ギュッと瞑ってた目を薄くも開き。


樹の舌が触れるそのあたしの唇に力が無為にも加わり、その間……樹の手があたしの身体のラインに服の上から触れた。


ビクッと反応するあたしを面白がるように見下して不意にクスリと笑みを零した。


「消毒」

そのあたしの唇に噛みつく様に貪る様に、ハァッと掛かる熱く意識を遠くさせるその樹の吐息。


目が虚ろになりながらも、その樹の淡く綺麗な色をした瞳にあたしの視線、意識、感情。



全てが吸い込まれていた。