…愛梨side




『他の男にそういう事される愛梨は、嫌だ』


不謹慎にもその言葉の裏にある樹の気持ちに、

ほんの僅かながらの嬉しさを感じてしまったのは…良くなかった。



けど、

やっぱり怒ってる。


それが分かると、どんどん不安になってってしまう。



「でも、どうせ不可抗力とかでしょ?」


その樹の何もかも見透かしたような、視線と表情。


それらに心拍数の速さが分かりやすくなる。



「うん…、急に…ペロッて」



『ペロッて 』


瞬間、凄い殺気を真横から感じる。

……樹が、もっと…怒っちゃった?


チラリと視線を配れば、案の定の樹の表情。


眉尻を上げ、鋭いいつもの目であたしを軽く睨む。



あ…っ……、


言葉に詰まり色んな場所に視線の先を浮遊させる。



「ふぅん、…“ペロッ”て?」


完全にこれは嫌な樹だ。

相当、苛立ってるんだと思われるから…正直怖い。


色んな意味で。


「……っ」

何て言えばいいかも分からず黙る。



あの変な男の子には強気な姿勢でいられたのに、

…樹の前じゃいっつもこうだ。


だから思う、樹には絶対に敵いっこないって。



ふと隅の方でそんなことを考えながら、

自分の唇の横を指で撫でた。