「『キスしてください』って顔してた」
あっけらかんとそう言うと、あたしの唇まで手を伸ばしてソレを親指で拭うと、
その親指をペロリと舐めてみせた。
そんな樹の行動一つに心臓が煩くなる、だから本当困っちゃう。
「し、し…してないもん!!」
「してたね」
顔色一つ変えずにそういうことを普通に言える樹はやっぱり樹。
「ていうか、…話、逸らしたでしょ!」
「何か話してたっけ?」
今度もまたのほほんとそう言うから…
ワザとなのか天然なのか、いまいち分からない。
うーん…、
多分あたし的に天然なんだと、思うけど?
「嫌なのにどうして?って話しだよ…」
「あー、…っね?」
ね?
いや、…ぜんっぜん話になってないよ!?
「だからもぉ…!さぁ?」
すると急に水の入ったコップを手に取って、ゴクゴク…と飲み干す。
その樹の様子に戸惑ったままいまいちどういった反応をしていいかも分からずにとりあえずそんな樹の様子を茫然と眺めていた。
「俺、好きじゃないんだよね、冬の寒さ…人混みも」
テーブルの上に置いた眼鏡を指先で弄くりながら樹は言う、けど…いまいち分からないような気も、
するけど、ね?