「何で愛梨が謝るの?」

柔らかな笑みを浮かべて樹があたしの手を取る。


「だって…だってあたし……」

手を取られたままただ下を向く事しか出来ない…情けなくって、それだけでいっぱいで。


樹はフッと小さく笑ってから、握ったあたしの手を自分の方に力強く引き寄せて、瞬間いつもの落ちつく匂いと場所に包まれていた。

離れようと、動いても。


ギュゥッと抱き締められたままで逃れられない。

そして少し感じたいつもと違う樹の雰囲気。…どうしたんだろう?そんな気持ちとは裏腹に、熱く高まる自分の熱に気付かされた。


「いいんだよ…悪いのは俺だから、愛梨は一つも悪くない……だから気にする必要なんて無いんだよ」


珍しいなんてもんじゃないくらいに優しい声色で。

再び強まった樹の力に…あたしも背中に回した腕にギュゥッと出来る限りの力を入れ込んだ。


「ううん…本当は、本当に面倒臭いとか、忘れちゃってるとか……そう思って…」


「…いくら俺でも忘れるわけないよ、愛梨のことは…忘れない」

そのままゆっくりと開く距離。
それさえも今は名残惜しく、尊いものに感じられた。


「“ソレ”…サイズぴったりでしょ?」

あたしの指にはまっているシルバーリングを指差して少し子供っぽく樹が笑う。

それに対してあたしもコクンち頷いて、でもどうしてサイズを知ってたのかな…?っていう疑問が頭の中に浮かんできた。


「ちゃんと前にチェック済み」

だんだんと樹の表情はいつもの余裕なものに変わっていって…


さっきまでの樹は嘘だったみたいに感じる。