一歩、また一歩と後ずさり始めるフェニルを不思議そうな目で見つめるリズ。



また一歩後ろに下がり、恐怖のあまり駆け出そうとしたフェニルは、背後にいた長髪長身眼鏡男にぶつかり、尻もちをついてしまった。




「これはこれは、失礼をいたしましたねぇ」


その男はフェニルに手を差し出し、立つように促す。



仕方なくその手を取り、立ちあがる。




「おや、リズ君。また仕事探しですかぁ?そろそろ来るころだと思っていましたけどぉ」



「あぁ、また世話になる。そのお嬢さんも客だ」


男は未だにフェニルの手を掴んでおり、まじまじと品定めをするかの様に見つめる。



そして、突如手を離したかと思うと店と思わしきドアを開け、中に入って行った。



「さぁさぁ、早く入ったぁ、そんなところにいたら往来の邪魔なことこの上ないですよぉ」



リズは別段気にすることはなく、その扉をくぐる。



フェニルは少々ためらったが、ここで逃げても迷子になりそうな複雑な道を帰路につけるかわからなかった為、震える手を必死に握りながら扉をくぐった。