「さて、お譲さま、これからいかがなさいますか?」



隣に佇む老年の御者は静かに語る。





「この城も随分と広かったのですね。旦那さまの生前はもっと華やかで、狭い感じがいたしましたが。余計なものがなくなると、その本質がよくわかりますね」






御者は問うているわけではなく、静かに語るだけ。









「じい。なぜ今までここにいてくれたの?あなたくらい有能な人ならどこだって雇い主はいるでしょう?こんなボロボロなお屋敷にいてもあなたの能力は生かされないのではなくて?」





じい、と呼ばれた人物は、ただ静かに微笑む。





「その呼ばれ方も久しぶりですね、お嬢様。わたくしは、この城の城主にお仕えしたいだけなのです。最も、それはベルではなく、フェニル様ですよ。旦那さまにお仕えしたときから、私はこの城の城主にお仕えしようと心に決めていましたから。あの方が大切になさったものはすべてお守りいたします。ここ数年のことは申し訳ありませんでした。わたくしも尽力いたしましたが、何分・・・・」





しぃ、と指を押しあてられ、じいは黙った。





「もう過ぎたことはいいわ。これからを考えなくては。お父様の言っていたことを思い出して。何があっても笑顔で。笑顔を忘れた人には幸せは付いてこないよ、って。いつも言っていたわ。そう、最近の私は笑顔なんて忘れていたわね。幸せになるにはまず、笑顔よ」



「そうですね。その調子です、それでこそお嬢様です」