喧騒はますます大きくなる。
恐る恐る小窓を覗こうとするフェニルをリズが制する。
「今は顔を出さない方がいい。顔にキズをつけたくないなら」
スッと、冷めた目でフェニルを見る。
その視線に彼女は一瞬、寒気を感じたように身震いする。
リズの底知れぬ威圧感に、フェニルは黙って座席に納まっているしかなかった。
馬車の中の沈黙を感じ取ったかのように、車外もシンと静まり返る。
リズは黙って目を閉じた。
これから怒りうるどんな事態をも想定しつくしているかのように。
ただ静かに時が満ちるのを待っているかのようでもあった。