そうでなければ出世を望めないからだが――。

藤盛家はどうであろうか。

母君の父は由緒ある血筋であるが、残念なことに実家はこの邸を残し絶えている。お父さまの少将も悪くはない血筋ではあるが、当の本人が出世街道から道を外れたままなのだから、これもどうにもならない。

少将というのも以前少将だったというだけで、今は官職についていない。収入源はささやかな荘園から届く収穫物と、位禄のみなのである。

ということで花菜姫の場合、天変地異でもないない限り上流貴族の正妻になるという見込みはなかった。
おまけに彼女の両親は、『花菜の好きなように』と言って憚らないのである。

――結局、姫が好きなように生きることが、幸せなのだろう。

得意げに帽子を被り、太陽のように明るく笑う花菜姫を前にしては、嗣爺も彼女の生き方は間違っているなどと、言えるはずもなかった。