おとなしく奥に籠っている姫ではない。

こっそりと築地塀の隙間から、道行く公達を覗いては品定めをしていた。

あの公達は人相が嫌だ、この公達は威張っていて性格が悪そうだと文句をつけて、付け文でもこようものなら、使用人のふりをして『お帰りください! うちの姫は安売りしませんのよ』と、けんもほろろに追い返す。

それが夜ならば、物の怪のふりをして脅かして、逃げてゆく様に笑い転げるという始末だ。

雷に打たれた後もそれは変わらず、むしろ未婚を通すことが、彼女の中で確固たるものになっているようだった。

『どうせ正妻にはなれないわ。つまらない男の第二夫人とか第三夫人に身をやつすくらいなら自分の力で生きていくわ。その方がお父さまもお母さまも幸せにできるっていうものよ』

花菜姫の言うことには、一理あった。

貴族の男からみて理想的妻は、親の出自が高貴であることの他、夫の生活を支えるだけの財産があることだ。

美人であるか否か以上に、求められることがそれである。