実際、春先には可愛らしい花をつけたりするので、両親は疑問にも思わなかったようだ。食卓にあがって口にしているものが、自宅の庭で収穫したそれとは今もって知らないだろう。

「最高でしょ、家庭菜園」

「ええ、本当に」と嗣爺はうれしそうに笑みを浮かべる。

満足げに鼻をピクリと動かしながら、花菜も腰をおろし、手伝い始めた。
冬とはいえ、日焼けを避けるために帽子を被っている。

そんな花菜姫を振り返り、嗣爺は人知れずため息をついた。

恰好はいずれにしても、元々色白でほんのりと色づく頬が健康的であるし、にこにこと明るい可愛らしくて美しい姫だ。

誇らしく思いながら、だがしかし貴族の姫がそれでいいものかと、心からは喜べないでいる。

花菜姫は十九歳。
もう充分結婚してもいい年頃である。

いくら少将が変わり者ではあっても、男が寄って来ないわけではない。

奏でる琴の音につられて興味を示す公達がいないわけではないが、花菜姫自身に全くその気がないのだ。