夏なんて嫌いだ! と口に出して季節を毎年呪っていた私だけど、隣に暑苦しく座る井ノ上くんのせいで、今年はまだ呪うまではいけていない。


「井ノ上くんは、夏が好きそうだよね」


「うんっ。めっちゃ好きっ。海も近くてすぐ泳げるし、夏ってサイコーだよねっ」


満面の笑みで返されては、言えるわけがないじゃないか。


私は柴犬が大好きなのだ。
その柴犬みたいなくるくるした黒目をきらきらさせて、時折具現化しているように錯覚する犬耳をぺたんこにさせながら、これまた具現化尻尾を揺らして私に近寄ってくる姿に、悪いことなんか言えない。
プール焼けした髪は色も質も夏の柴犬の背中の毛に似ていて、思わず撫でくりまわしたくなるけど、それは犯罪にあたりそうだから脳内に留めておく。


室内派の私と、まるで太陽の子みたいな井ノ上くんなんて、接点など全くないように思える。
事実、前年度は存在も知らなかった。


知り合ったのは、今年の梅雨入りの頃。


井ノ上くん含め水泳部の人たちが、図書室近くの廊下や階段で部活をしていたときだった。