肩ががっつりと出るデザインの服なので胸の谷間がよく見えるのだが、ザックは一度も視線を向けることなく「王子ならフラフラとこんなところにいるわけないだろ」とそっけなく言ってから、シチューとセットになっているパンをかじった。


ファーレン王国には四人の王子がいる。

中でも武勇に秀でた第一王子は騎士団の団長を務めており、次期国王としての期待も高い人物だ。

また、芸術肌の第二王子に、誇り高い第三王子は第一王子のように表舞台に立つことも多い。

しかし、第二王妃の息子である第四王子はあまり公の場に出てくることはなく顔を知る者は限られていることから、世間ではミステリアス王子と呼ばれている。


「まぁ、確かにそうね。じゃあ、ごゆっくり〜」


袖にされても気にした様子もなくフフッと笑って別の客の元へと去る大人なウエイトレスを、アーシェリアスは目で追う。


「今のウエイトレスさん、凄く魅力的な人ね」

「どこが」

「え、美人さんだし、それにほら、あの胸とか? 羨ましいくらいに豊かよね」


アーシェリアスに言われ、ザックは歩くたびに揺れるウエイトレスの胸を見た。

次いでアーシェリアスの胸元に視線を移す。


「……まあ、人それぞれだからな」


そう言って、残りのパンを口に放り込んだ。