「降りるぞ」
「え? まだ町は見えないけど……」
「町へはここから階段を上って入る。馬車では行けないんだ」
崖の町と呼ばれるからには崖に家屋が建ち並んでいることは想定していたアーシェリアス。
けれど、馬車で入っていけないのは全くの予想外だった。
宿泊する予定もある為、必要なものが入った革のショルダーバッグを肩にかけてザックに続き馬車を降りる。
厩舎の管理者にお金を払うと、さっそく現れた階段を上がり始めた……のだが。
「ぜぇ、はぁ……ザックは……なんで……ぜぇ……そんな余裕……なの」
五十段ほど過ぎたあたりで息が切れてきたアーシェリアスは、疲れた様子もなくサクサクと足を進めていくザックに問いかけた。
「俺は男だし、鍛え方も違うからな。疲れたなら引っ張ってってやろうか」
そう言ってアーシェリアスに手を伸ばすザックの横を、シーゾーがパタパタと小さな羽根を羽ばたかせて追い抜いていく。
(よく考えたら、あの羽根のサイズで飛び続けるには相当の努力が必要なはず……)
身体に比べると羽根は小さめだ。
ザックと同じく、シーゾーもまた努力しているのだと思えば甘えてはいられないとアーシェリアスは首を横に振った。
「ありがとう。でも大丈夫よザック! シーゾーが頑張ってるんだもの! 私も負けないわ!」
気合いを入れ、改めて終着点を目指すアーシェリアスを目で追うザックは人知れず笑みを漏らす。