それから一週間後──。
ついに旅立ちの日がやってきた。
「どうぞ、娘をよろしくお願います」
屋敷のエントランスで、ザックに深々と頭を下げる父と兄の姿に、アーシェリアスは隣に立つザックを見る。
(いや本当に何を話したの!?)
どうやら兄レオナルドも事情を把握済みらしく、アーシェリアスの肩に手を添えると「彼に迷惑をかけないようにな」と窘められた。
謎は深まるばかりだけど、これから共に旅をするのだ。
いつか知ることもできるかもしれないと考え、今はただこうして旅に出られることを心から喜ぶことにする。
「俺は先に馬車に乗ってる」
白いホロがついた馬車には、自分たちの荷物の他に、料理好きの母が世界各国から集めた優れものの調理道具が積まれている。
形見ともいえるそれらを持ち出すことを、父は許してくれた。
亡き母がきっと、アーシェリアスを導いてくれるだろうと言って。
「わかったわ」
ザックが一足先に馬車へと向かうと、アーシェリアスはエントランスに集まった屋敷の者たちにしばしの別れを告げる。