いつだったか、熱が出て怖い夢を見て眠れないと言ったアーシェリアスに、その時も母は手を握ってくれていた。

そして、料理が好きな母らしい話をしてくれたのを思い出す。

食べた人を幸せにしてくれる幻の料理があるのだと。

それはどんな料理なのかと訊ねたアーシェリアスに、母は自分にもわからないと答えた。


『それならいつか私が探してお母様に作ってあげる』

『嬉しいわ。楽しみにしてる』


(そうだった……約束、したのに)


叶える前に天国へと旅立ってしまったと、アーシェリアスは寂しさを募らせる。


(もし、旅に出ることができれば、探しにいけるかしら)


母に食べさせることはできないけれど、せめて食べた人を幸せにしてくれるという幻の料理がどんなものなのかを知り、作ってみたい。

アーシェリアスの中で夢が膨らみ育っていく。


(やっぱりもう一度お父様に相談しよう)


いや、一度と言わず何度も。

ファレ乙アーシェリアス的バッドエンドまであまり時間はないけれど、諦めずに話し合うのだ。

決意したアーシェリアスは双子窓の外に浮かぶ夜空を見つめ、どうか叶いますようにと淡く輝く月の女神に祈るのだった。