(待って、ザックの声に似てる!)
部屋には鍵がかかっているはずだ。
ザックが部屋にいるわけがないと半信半疑で声のした方へと視線をやると……
「いつまでもそんな恰好してないで、さっさと支度しろよ」
母親みたいなことを口にしながら、ザックがベッドのすぐ横に立っていた。
なぜザックが部屋に入っているのか。
いや、問題はそこではない。
ザックの手には、ふとんがある。
それはつまり、寝ているアーシェリアスから剥ぎ取ったということに他ならないのではないか。
「ふ、布団、取った?」
万が一、落ちた布団を拾ってくれたという可能性もある為一応確認してみたのだが、ザックは当然のように「取った」と答えた。
確定した瞬間、アーシェリアスは顔を真っ赤にする。
そんなアーシェリアスの様子を見たザック、茹でエビの次は茹でタコかと心の中でボケて「ぷっ」と自分でウケた。
「ちょっと、何がおかしいの!?」
ザックの手から布団をひったくり、口調に怒りを滲ませたアーシェリアス。
シーゾーは雲行きが怪しくなってきたことを読み取り、そっとふたりから距離をとった。
空気を読めるシーゾーとは反対に、読めないばかりかデリカシーのないザックは正直に話す。
「いや、さっきの寝てる姿がエビみたいで、今はタコみたいだから」
「それがレディに向かっていう言葉!? もうっ、出てってー!」
アーシェリアスは怒りに任せ、奪ったはずの布団をまたザックへと投げつけた。