深夜、橋の上から見下ろす川のせせらぎに、楽しげな女性の声が重なる。

どこか甘えるようなその声色につられ、手すりに肘をつき寄り掛かっていた莉亜(りあ)は、項垂れていた頭をのそりと持ち上げ振り返った。

視線の先には仲睦まじく寄り添い腕を絡めて歩く若い男女。

他人のことなど視界にも入らないといった感じでふたりの世界に浸る男女が通り過ぎると、莉亜は手にしている缶ビールに口をつけ、ぬるくなったそれを喉に流し込んだ。

そして、盛大なため息を吐き出してからまた眼下に流れる川に視線を落とす。


(いっそ、ここから飛び降りちゃおうか)


バカなことを考えているのはわかっている。

けれど、そんな風に考えてしまうほど、莉亜は今、絶望していた。

脳裏に浮かぶのは昨日まで彼氏だった男の姿。

今年の春、二十六歳の誕生日を迎えた莉亜。

元彼は三つ年上で、付き合って半年だった。

二カ月前には結婚の話も出ていて交際は至って順調。

式場は早めに押さえないといけないと共に結婚式場をめぐり、大きなステンドグラスに惹かれてここにしようと決めたのが一週間前。


『じゃあ僕が結婚式の費用を振り込んでおくよ』


そう言って、莉亜から四百万円を受け取り……彼はそのまま消息を絶った。