みちるside
「相賀くんが好きです、付き合ってください」
ああ…どうしてこんなことになってしまったんだろう。
私はただ……ジャンケンに負けただけなのに。
ほんの数分前、教室での昼休み中。
「ねぇ、みちる。私彼氏できたよ」
友人の美香のその一言が事の発端だった。
「へぇ………って、マジか!」
「嘘だよ、今日エイプリルフールだからさ」
あー…そういえばそうだった。
「あ、だからか」
「ん、なにが?」
私は朝からずっと疑問に思ってたことがすっと消えていく感じがしてすっきりした。
「いや朝から、やたらとみんなに嘘つかれるから嫌われてんのかと思ったけど…そういうことだったんだ」
よかった、嫌われてる訳じゃなかったんだ。
「まぁ、みちる騙されやすいからなぁ」
そんな事はないけど…。
「ねぇ、みちる。みちるも誰かに嘘ついてきたら?」
「なんで?いやだよ」
嘘なんかつくもんじゃない。
だって今日、みんなに嘘つかれて私のガラスのハートはもう粉々だよ。
「堂々と嘘ついていいのは今日だけだよ?それに…騙されてばっかでいいの?」
…た、確かにいっぱい騙されてはいるけども。
「嘘はダメ、絶対にダメ」
「真面目だなぁ。嘘って言っても小さい嘘でいいんだよ」
小さくても大きくても嘘は嘘じゃん。
「あ、じゃあさ…私とジャンケンしよう。で、負けたほうが相賀くんに告白するの」
はい?何を言ってるんだこの子は。
だいたい…
「相賀くんって去年の学祭のミスターじゃん!」
そう、相賀くんとは学校で一番人気の男子だ。
無謀すぎる…絶対フラれるじゃん。
「じゃ、いくよー!ジャンケン…」
え!待って、私やるなんて…
「ポン!」
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なんであの時反射的にとはいえ手出しちゃったんだろ…。
…負けちゃったし。
「あの時、チョキさえ出してなければ…」
「…神咲さん?なにか言った?」
あ、そうだ…告白したんだ私。
「それで、返事なんだけど…」
あぁ…私今からフラれるのか。
嘘の告白とはいえフラれるのは辛いな。
まあ、私が嘘ついてる時点でそんな事言う資格ないけどね。
「俺なんかで良ければお願いします」
「そうですか…聞いてくれてありが…と…う?」
んんん………?聞き間違いか…??
「実は俺…前から好きだったんだ…神咲さんのこと」
え、ええ…えぇ…マジか。
ど、どうしよう…こうなることは全く予想してなかった。
今からでも断る…?
「でも、嬉しいなぁ…俺初めてなんだ好きな人と両想いになるの」
ひぇ…なんて無邪気な笑顔なんだ…。
い、言えない、嘘の告白だなんて口が裂けても言えないっ!!
心が痛い…。
だから…嘘なんてつきたくなかったんだ。
「…美香のバカ」
けど、ジャンケンしたとはいえ美香の提案を断ることだってできた。
バカなのは私だ。
「それで神咲さん、もしよければ今日から一緒に帰らない?」
そうか…付き合ってことはこれから一緒にいる時間が増えるわけで、
それはちょっと困るんだけど…。
でも……
「うん、帰ろう!一緒に帰ろ!」
少しでも相賀くんが笑顔になるのなら、
いいかも知れない……なんて思った。