軟禁している人間がなにを言う。
「…なに、言って」
「坊っちゃんが貴女をここに連れてきた当時の貴女はみるも無残な姿でした。目の下には黒い隈、髪の毛は艶を失い、病人かと思うほど肌の色は青白く、痩せ細っていました」
あの時は仁が帰ってこなくて、その心配ばかりしていた気がする。
それ以外はあまり記憶に残っていない。
あたしにとって、それは忘れたい記憶だから。
「確かにマーク様の元に戻すのがわたくし達の仕事でした。だけど、貴女の状態が酷かった。ですから、まずはそこからだとわたくしは思っていたのです。思って、いたのですが…」
あたしに向ける目は優しい。
驚くほど、怖いほど。
「…汚い世界で育ってきたはずの貴女は綺麗な人でした。煌びやかとは違いますよ。綺麗なんです」
綺麗?あたしが?
佐々木さん独特の感性に戸惑いながら、なんとかうなずく。
「こんなに綺麗な人をあの人の元に帰すのは惜しい」
な、何を言っているのだろう。
「自由になりたいならなればいいんです。それで貴女が幸せなら」
「…佐々木さん」
それってもしかして。
「マーク様は19時にいらっしゃるとさっき連絡が入りました。逃げるなら今です」