「仕事が忙しくて連絡もままならないのは両親を見てるからよくわかるよ。
ただ、理解はしてても気持ちがついてこなかっただけ」

心配させてごめんね。と謝り二人で苦笑していると話が一段落したのを察してか遠くから見ていたらしい映画の関係者の人達が話しかけてきた。
それからはたくさんの人と話したり写真を撮ったり握手したりとそれなりに楽しい時間を過ごしていたが、ふといるはずの人がいないことに気付いて勇菜は首を傾げた。

「あの、草野さんは?」

「ああ……一ノ瀬さんと言い合いしてから姿を見せないですね」

「言い合い?」

あの温厚な隆君が?と目を丸くしていると、だって、ねえ?と周りの人がその時の事を話し出した。

「一ノ瀬さんも随分我慢してたんですよ。
草野さんは先輩だし、映画を作っていく中で悪い雰囲気にしたくないって」

「ベタベタくっついていくのも、猫なで声であざとく振る舞うのも、見てて本当に鬱陶しかったですよね」

「極めつけはユウナちゃんが浮気してるって一ノ瀬さんに写真を見せてたこと!
絶対浮気なんてあるわけないのに、別れさせようと必死すぎて……」

ああ、あの時に写真を撮ったのは草野さんだったのかと勇菜は一人納得した。
周りの人の話を聞く限り美佐の言動の悪さが目立つが、こちら側の話しか聞いてないので何とも言えない。
けれど恐らくその行動の根底にあるもののことを考え、勇菜は複雑な心境になった。