「監督……もう帰っていいですか?」

「駄目に決まってるよね?
主演が何言ってるの」

打ち上げが始まって数時間。
隆矢は何度目になるかもわからない交渉をしたが監督は笑顔で一蹴するばかりだった。

新人の主演俳優が早々に帰れるわけがないのはわかってはいるけれど、それでも早く勇菜に会いたい。
それしか頭にない隆矢は会場の晴れやかな雰囲気とは逆に暗い気持ちになっていった。

「監督」

ホテルの従業員が足早に監督に近付き何やら耳打ちしている。
話を聞いた監督は何度か頷いて嬉しそうに笑っていた。

「願ってもないことです。よろしくお願いします。と伝えてください」

「かしこまりました」

一礼してまた足早に去っていった従業員の姿が見えなくなるまで見送った後、ほくほくとした顔で酒を飲んでいる監督に視線を移した。

「何かあったんですか?」

「なに、ほんのサプライズだよ」

「はあ……」

この顔と話し方は何を聞いても答えてくれない何かを企んでいる状態だと、長いようで短かった付き合いの中でもわかるようになった。
今日で一緒に仕事をするのも終わりだと思うと少し寂しい気もしていたら会場が急に薄暗くなりその場にいた全員が驚き周りを見回した。