「おい。」

「..........。」

「おいって!」

「...........。」

中学1年生の少年Aは初夏のある休日、夕方の路地裏でクラスメイトの少年Hを見かけた。話しかけているのに思い切り無視をするHを、Aは不服そうに睨みつけた。引いていた自転車を止め、Aは路地裏にずかずかと足を踏み入れていく。

「お前、こんな暗いとこで何してんだよ!」

「....かわいそうだよね。」

Hはボソッと呟く。
何のことかと思い、俯いているHの目線の先に目を遣ると、Aはハッと息を飲んだ。

Hの足元には腹を掻っ切られたキジトラの猫が転がっていた。中から引きずり出された内臓は綺麗に裂かれ、周りには血と酷い悪臭が広がっていた。

「なんだよ…これ…。」

Aは傷の様子から動物の仕業ではなく、明らかに人間の仕業であると確信した。そして目の前のHの手に赤黒い雫の落ちるナイフが握られていることにも気がついた。

「なにが”かわいそう”だよ!お前がこんな酷いことしたんだろ!!」

正義感の強いAは息を荒げてHの肩に掴みかかった。しかしAよりも背の高いHは表情を変えず淡々と話す。

「違う。猫は最初から死んでた。」

「はぁ?!嘘つけ!」

嘘じゃない、とHは迷惑そうにAの腕を振り払う。

「じゃあそれはなんだ!」

Aは怒りを隠しきれない様子でHの右手を指差す。

「あぁ、これ…。」

Hはナイフに目を落としてから、ため息混じりに呟いた。

「死んでたから腹を裂いたんだ。何を食べたのかなーと思って。そしたら案の定、身体に良くないものを食べてた。多分ジャガイモの芽だね。相当飢えてたんだろう。」

かわいそうに、とHはしゃがみこんでナイフの先で猫の胃に入っていたのであろう消化物を弄る。興味本位で動物の死体を弄ぶHのその姿をみて、Aは背中に悪寒が走るのを感じた。気味が悪い。急いでこの場を離れよう。そう思った。

「あ、ちょっと...」

背後のHの声をよそにAは逃げるようにその場を去った。