四月も半ば、終業のチャイムが鳴ると同時に教室はわいわいと騒がしくなった。クラス替えの日からはや1週間、社交的な者は新しい友人と肩を組み笑い合い、内向的な者はそそくさと教室を後にしていた。響人はどちらにも偏らず、誰にでも親切にするタイプで特に仲のいい友人を作ることはなかったが皆から慕われる人柄だった。
表向きは。

その日も特に誰を誘うこともなく、響人は鞄を背負い教室の扉を抜けようとしていた。すると後方からクラスのやんちゃな男子に遊馬ー!と呼びとめられた。

「お前、今日彼女の安斎さん休みなんだろ?一緒に帰ろうぜ!」

「はあ?」

なぜ智世と付き合っていると思われているのか。響人にはこれといった心当たりがなかった。確かに朝すれ違えば一緒に登校することはあったが、それだけでここまで誇張された噂がされるだろうか。もちろん響人たちの他にも男女で登校する者は周りに複数いた。

「誰情報なの?それ」

「え?安斎さんの友達がお前ら付き合ってるって。」

するとクラスいちのイケメンと女子から評判の高い男子が二人の間に割って入った。

「馬鹿お前、その話まだ片思いの段階なんだろ?」

「え?!そうなの?」

「最っ低だなお前、デリカシーなさすぎ!」

「は?勘違いじゃん!そこまで言わなくてもよくね?」

口論を勃発する二人に気づかれぬよう、響人はそうっとその場を去った。


智世が学校を休んだ?今までそんなことは決してなかった。少なくとも去年同じクラスだった時は、無遅刻無欠席であった。まあ、普通に体調を崩したんだろう。響人はそう軽く受け止めて、特に気にしなかった。
それよりも厄介な噂が流されていることが不服だった。うやむやにしておくのは性分に合わなかったので、智世に直接問い詰めることにした。
携帯を取り出し、雨の気配が漂う曇天の空の下、駆け足気味に校門へ向かった。