「会いたかったよ。心優(みゆう)。」



そう言ってなんの躊躇もなく私を優しく抱きしめる奏良(そら)。


名字は前に聞いたことがあるが教えてくれなかった。


ストレートの黒髪マッシュヘアで、女の子が羨むようなカールをした長い睫毛に大きくて綺麗な目、高い鼻。


誰もが声を揃えてイケメンと言うだろう。



「私も、会いたかった。」



私は高鳴る心臓を抑えて冷静に言った。


それを聞いた奏良はフッと少し悲しげのある笑みを浮かべて私を見ている。


出た。


奏良は無意識だろうが今のようなどこか遠くを見据えて悲しそうな顔をする。



瞳は私を写しているのだが、その奥に私はいない。



誰を見ているの?
そう聞けない私は臆病者だ。









「最近忙しいの?」



私は全く違う質問をした。


「今度から新しいドラマが始まるんだ。だから割と忙しいかな。」




そう。彼は今日本で人気No. 1の俳優なのだ。そして彼は世界の人が選ぶイケメンランキング6位で日本人で唯一ランクインしている。


そんな彼は今ドラマやバラエティに引っ張りだこでとても忙しい。


そして彼と会うのは決まってこの場所。


Lunafa(ルナファ)。



地元の人たちでも知っている人が少ない穴場のカフェだからか人は全く来ない。


今も店内には私と奏良の2人だけ。


店内は薄暗く落ち着いたバラードが流れていて、ゆっくりしたい人にとっては最高の場所だと言える。


そして、少し会話を楽しんだ後



「また来週の金曜日ね。」



いつも奏良はそう告げてカフェを去る。







私たちは特に何をするわけでもない。
付き合っているわけでもない。
お互いの連絡先も知らない。
ただ金曜日の夜にLunafaで少し話をするだけ。
それだけの関係なんだ。


相手は超人気な芸能人だし話せるだけで幸せ、これが普通、毎回そう自分に思い聞かせている。



彼がなぜ金曜日の夜だけにここへ来るかは分からない。


そこは触れてはいけないと思ったから。



なんとなく聞いてはいけない気がしたの。



「今日も帰っちゃった...」


私はそう小さく呟いてため息をもらした。


そして、少しお茶を飲んで私も帰宅する。





そもそもなぜ毎週金曜日に会うことになったかというと、2ヶ月前のある日がきっかけになっている。



________________________


その日は土砂降りの日で、傘を忘れた私は雨宿りしようとたまたま見つけた人の少なそうなカフェに入った。


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