都の剣〜千年越しの初恋〜




次の日、沙月はドキドキしながら鏡の前で髪を結っていた。色とりどりの羽をした鶴の柄の着物を着ている。

「デート……!なんか、夢みたい」

沙月がそうひとりごとを呟いていると、「準備できたか?」と葉月が襖の向こうから訊ねる。

「うん!できたよ」

沙月がそう言い襖を開けると、黒い着物を着た葉月の目が大きく見開かれる。そして、頰を赤くした。

「ねえ、どうかな?髪もいつもと違って結ってみたんだよ!」

沙月がそう言いながら葉月に抱きつくと、葉月は「わかった!わかったから!」とさらに顔を赤くする。

「に、似合う!!」

素早くそう言うと、葉月は先に走って行ってしまった。沙月はクスクス笑いながら後を追いかける。

楽しいデートの始まりだ。



二人は、前世でツキヤとサシャが行っていたデートコースを巡っていた。河原で手をつなぎながら散歩をしたり、甘味処であんみつを食べたり、サシャとツキヤも楽しいと思いながらデートをしていたんだな、と沙月は思う。
町で、沙月と葉月はいろいろなお店を見て回っていた。

「葉月、この食器って日本っていうよりは中国っぽいよね」

「まあ、日本は大昔は中国との交流が盛んだったと思うしな」

そんなことを言いながら食器を売られている店を見たり、なぜか八百屋や魚屋まで見に行ったりした。

「なあ……」

不意に、葉月が沙月の手を掴む。かんざしを見ていた沙月は、「どうしたの?」と訊ねた。葉月の目はいつになく真剣だ。

「ちょっと来てくれ」

そう言って葉月は沙月の手を掴んで歩き出す。しばらく歩くと、ネックレスや指輪などを売っている店にやって来た。

「これ、お前に似合うと思って」

そう言って、葉月は水色のパワーストーンのネックレスを買い、沙月の首にかける。

「あ、ありがとう!」

沙月は嬉しさでいっぱいになる。やはり、大好きな人といると幸せだ。サシャとツキヤもきっとこうだったはず。

「……きれいな色だね」

沙月はパワーストーンを見つめる。

「ああ。お前によく似合ってる」
葉月の言葉に沙月は嬉しくなった。そして、葉月にも何か買わなければと思い、沙月も緑のパワーストーンのネックレスを買った。

「これでお揃いだね!」

沙月がそう言って笑うと、葉月は少ししゃがみながら「つけてくれ」と言う。

二人の首のネックレスが揺れた。

「必ず、俺たちの運命を幸せに導こう」

「もちろん!」

二人は頷き、手を取り合った。
出発の時がやって来た。

「……いよいよかぁ」

沙月は鏡に映る自分を見つめる。その表情ははどこか固い。これから、自分の運命をかけた戦いとなるからだ。

沙月は黒の燕尾服のようなシルエットのジャケットと、白いスカートを履いていた。頭には赤い花の髪飾りをつけている。

「沙月、準備できたか?」

その声とともに襖が開く。部屋に入ってきた葉月も黒い軍服を着ていた。

「軍服、似合ってるね」

沙月がそう言うと、葉月は「お前もな」と赤く頰を染めながら言う。

「二人とも、もう出発の時間だよ」

キングが言い、二人は真剣な表情で互いを見つめ合う。チャンスは一度きり。これを逃せば後はない。

「必ず、勝とう」

葉月の言葉に、沙月は大きく頷いた。

外では、神々たちが武器を持って待機していた。ツクヨミなど知っている神もいれば、知らない神も大勢いる。沙月の胸はますます緊張でいっぱいになる。

「皆で協力して、ヤマタノオロチを封印するのだ!ヤマタノオロチを封印しなければ、都に平和は訪れん!」
イザナギの声に、神々たちは「おお〜!!」と声を上げる。

「沙月ちゃん!僕がちゃんと守ってあげるからね」

沙月の手を握りながらそう言うスーに、葉月は「テメェ、離れやがれ!」と蹴りを入れた。

「喧嘩してる場合じゃないでしょ」

沙月は思わず苦笑する。それを見て、葉月は少し安心したような表情になった。

「それでは出発!!」

イザナギのその声で、沙月たちは列を作って出発する。ヤマタノオロチがゆっくりと進んでいる北を目指す。

「沙月、無理はしないでね」

馬に乗っている沙月に、桜姫が話しかける。沙月は桜姫ににこりと笑い、また前を向いた。



町を離れてすぐに、沙月は空気が重苦しいことに気づいた。悪霊がいる時よりもひどい。

「ヤマタノオロチからとても離れているのに……」

沙月が呟くと、オモイカネが言った。

「ヤマタノオロチは、正確な大きさがわからないほどです。邪悪なものが大きければ大きいほど、影響力がある。ヤマタノオロチが体から出している負の空気は大きいのです」
遠く離れていてこれだけ息苦しさを感じるというなら、近くに来たら……。そう思うと、沙月はゾッと寒気を感じた。

町を出ると、辺りはのどかな風景が広がっている。自然豊かで、もしもヤマタノオロチがいなければ景色を沙月は楽しんでいただろう。

ヤマタノオロチという言葉がみんなの頭の中にあるためか、誰一人言葉を発さない。暗い顔でひたすら歩き続けている。

普段はふざけてばかりのひとめや火影も静かだ。それだけヤマタノオロチは、みんなに恐れられているということだろう。

沙月の胸に緊張が走った刹那、「あの!」ときれいな声がした。

「みんなで歌を歌いませんか?」

お雪がそう言い、沙月たちは全員お雪を見つめる。白い着物を着たお雪はにこりと優しく笑い、言った。

「恐れていては、勝つことなどできません。互いに鼓舞し合わなければならないと思います」

たしかに今の沙月たちは、戦いに行くというよりは、処刑台に向かって歩く罪人と言った方がいいような状態だ。誰もが恐怖の中にいる。
「お姉様、ステキなアイデアです!」

つららがそう言い、早速歌い始める。最近つららが好きになったという「好き!雪!本気マジック」だ。かわいい声が一面に響き、沙月の心が癒される。

つららが歌い終わると、パチパチと拍手があちこちから響いた。沙月も、お雪も、他の妖怪たちも、葉月も拍手を送る。

「よし!俺も負けていられねぇ!俺も歌うぜ!」

火影がそう言い、水月と一緒に「てんごくとじこく」を歌う。テンションの上がるリズムに、神々の顔にも笑顔が見え始めた。

「次は僕らが歌います〜!!」

春太郎と幸子が「いーあるふぁんくらぶ」を歌い、キングが分身をいくつも出して「Alice in New York」を歌った。

「人間界にはすてきな歌があふれてるんだなぁ」

ヒノカグがそう言い、春太郎と幸子の頭を撫でる。二人は、「まだまだいっぱいありますよ〜」と嬉しそうに笑う。

嵐猫が「砂の惑星」を、金次郎とひとめが「脳漿炸裂ガール」をノリノリで歌った。神々は楽しそうにリズムに乗って体を揺らし、神楽と芸能の女神は踊り始めた。
朧と桜姫、そしてお雪が「神のまにまに」を歌った後、沙月と葉月の方を向いて「沙月たちも歌ってください!」と微笑む。

「ええっ!?」

妖怪たちの上手な歌をずっと聴いていた沙月は、急に言われて驚く。みんな期待した目で沙月と葉月を見ていた。

「あの〜……僕も沙月ちゃんの家で暮らしてるんだけど……」

スーの言葉は全員に無視された。

「……俺が歌う」

葉月がため息をつき、言う。みんなの目が輝く。沙月は葉月が音楽を聴いているところを見たことがないので、どんな歌を歌うのだろうとドキドキした。

今までボーカロイドが流れていたが、葉月が歌った歌は日本語ではなかった。ONE OK ROCKの「Wherever you are」だ。

切ないメロディーと歌詞に、神々や妖怪、そして沙月の胸は締め付けられる。

すてきな愛の歌を歌い、葉月は恥ずかしそうにした。

「すごい!葉月、かっこいいよ!英語の歌が歌えるなんて!」

沙月は誰よりも大きな拍手を送り、笑う。胸は高鳴り続け、止まらない。
その気持ちを伝えたいため、沙月も息を吸った。歌ったのは、「愛言葉II」を歌った。

「……バカ……」

葉月の顔はもう隠せないほど真っ赤だ。それを見て、沙月は幸せを感じる。

そして、みんなで「今日もハレバレ」や「smiling」、「太陽系デスコ」を合唱する。

こんな楽しい時間が永遠に続けばいいのに、そう沙月は思った。



「今日はここまでにしよう」

イザナギの言葉で、沙月たちは野宿をすることになった。家などはないため、テントと結界を張る。

「なんかキャンプみたい!」

夕暮れの中、沙月はツクヨミとサクヤ姫とはしゃぐ。そして、夕食の準備をすることになった。

料理長も一緒に来ているため、持ってきた材料などを鍋などで調理する。ヒノカグやオカミなどが協力し、無事にアジの香草はさみ焼きときのこのバター炒め、ご飯と味噌汁ができた。

「うわぁ〜!!」

お腹をみんな空かせていたため、あっという間に平らげ眠る。明日の朝は早い。

ヤマタノオロチと対峙するまでは平和、誰もがそう信じていた。

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