「木村悠真くん…」
カーテンの隙間からは太陽の光が差し込んでいた。
昨日の高校の入学式で一目惚れした木村悠真のことを思い眠れなかった河口瑞希は目の下に巨大なクマを飼っていた。
元々遅刻なんて中学時代からしたことは無かった瑞希だが今日はかなり余裕を持って学校に行く準備が出来そうだ。

「お母さんおはよう」
「あら、クマができてるわよく眠れなかったの?」
母親に昨日同じクラスになったイケメンに一目惚れしてその男の子を考えすぎて眠れなかっただなんて言えるはずもなく瑞希は適当にごまかした。
「なんだ瑞希お前は緊張しいだからどうせ学校で上手くやれるか緊張して眠れなかったんだろ!」
スーツをピシッと決めた父親がガハハと笑いながら食卓についた。
(人の気も知らないで…)
瑞希は気づかれないよう父親を睨んだ。
「そういえばお兄ちゃんは?」
いつもなら瑞希よりも早く食事を始めている兄の姿が見当たらなかった。
「お兄ちゃんは生徒会で早く学校行くって言ってたわよ。瑞希もちゃっちゃとご飯食べて早めに家でなさい」
まだよく分からない学校までの道を同じ学校に通う兄に同行してもらおうと思っていた瑞希は少しがっかりした。

「えっと…基実駅で降りて乗り換えて…」
あまり電車が得意でない瑞希にとって1人で登校というのはかなり不安なことだった。
「何とか乗れたけど…この電車であってるよね…」
キョロキョロと辺りを見渡すが早かったせいか学生が見当たらなくさらに不安になってくる。
席に座って読書に励んでいた瑞希の足元を心地いい春風が通る。
2駅目に到着しドアが開いたのだ。
読書の合間に背伸びをする。
「ん〜っ」
ちょうど顔を上げた時見覚えのある顔が瑞希の目に映る。
(き、き、ききき、木村くん!?!????)
入ってきたのは両耳にイヤホンをしている瑞希の一目惚れ相手の木村悠真だった。
(木村くんと同じ電車だったなんて…!嬉しい!!けど、私
髪とか大丈夫かな…)
相手が瑞希に気づいているかどうかも分からないのに1人でそわそわするそれはまさにトイレを我慢してる少女の図でしかない。