「ぼくはどうしても橋を渡らねばならないのです」
ハンスはすがるように言った。

「ならば渡ってゆけばいい。できるだけの手助けをしてやるぞ。そのためにおれは、ここにいるんだからな」

「でも、その橋が……」

「見えない?」

「……はい」
ハンスは力なくうなずいた。

「見えないのならダメだ。渡ることはできんぞ」

ヘンリックはきっぱりと言いきった。

「なんとかしてください。長い旅をして、ようやくここまでやってきたのです」

「わかるよ」

「言ったじゃないですか。手を貸してやるって……。お願いしますよ」

「みんな、そう言うんだよな」
ヘンリックは苦笑いして、さらにつづけた。

「だが、見えないというのなら、おれにもどうしようもない。見えない者には渡る資格はないんだ。手を貸してやることもできん。わかってくれ」

ヘンリックは「そういう掟(おきて)になっている」とくりかえすばかりだった。

「ならば、どうすればいいのですか?」

ハンスは失望のあまり、ほとんど気をうしないそうになっていた。

「それを、このおれに聞くというのかい?」
ヘンリックは失笑した。

「おねがいです」

「そういわれてもなあ、おれにもわかからんよ。しかし……だ。今日はみえなくても、明日はみえるかもしれない。世の中はなんでもそういうものだろう。ま、出なおすんだな」