『そんな前から・・。わたし、原口さんのことはずっと憧れてて。でもわたしとか相手にするわけないって思ってたから驚きました。』

そう言うと原口さんも驚いていた。

『俺ら相当マイナス思考だったんだね!!』

と原口さんが言ったからわたしは声を出して笑った。


そんなとき前方から俊くんがこっちに歩いてきてるのが見えた。

原口さんもまた黙ったから気付いたんだと思う。

近くに来て俊くんは目の前で立ち止まり

『すみません。咲貴ちゃんちょっと借りていいですか?』

いきなりだが俊くんが穏やかに原口さんに言った。


わたしは黙っていたが原口さんはいいよ。と言ったのでわたしは立ち上がって俊くんの後ろを黙って歩いた。


なんか・・あいのりみたい。

不謹慎だけどちょっと思った。


途中原口さんの方を振り返ったが原口さんは笑って手を振ってくれた。

わたしは複雑だったけどちょっと手を振って俊くんの後ろを歩いた。

水着の上から肩にかけているディズニーのバスタオルが砂だらけになっていたので払いながら。


ちょっと離れたところで俊くんは立ち止まって下にドカッと座った。

わたしもちょっと離れて横に座った。


『あの人、何歳?好きじゃないって昨日言ってたよね?なんでここいるの??』

気になっていたんだろう。

まとめて質問された。



『俊くんの1こ上だよ。ここには偶然・・来てたみたい。』

偶然ではないけど言いにくかったので偶然ということにした。
『咲貴ちゃん、俺と一緒に帰ろうよ。送るから。』

俊くんは右手でわたしの左手首を握って言った。

でも、わたしは黙っていた。


友美もいるし、俊くんと帰ることは絶対に無理だから。

すると俊くんは手を離し、わたしの首元を横からギュッと抱きしめた。



『約束する。さっきみたいなことは二度としない。さっきだって無理矢理絡まれてて、抜けなくてキレたらやっと抜けれたんだ。絶対大切にする。まだ考えれないなら一緒に帰るだけでもいいから。』

わたしの右耳の後ろくらいから言われてゾクゾクっとした。

どうすればいいかわからず、とりあえず

『俊くん、離して。』

冷静を装って言った。



俊くんは手元を緩めてゆっくりと離れていった。

『一緒には無理だよ。友美がいる。あと、そのことはまだ考えさせて。ごめん。』

そう言ってわたしは勢いで立ち上がった。


ここにはいれなかった。

わたしは昔からだけど強くガンガン押されるとなびいてしまう。

特に自分がいいと思っていると。

俊くんがさっき女の子たちと楽しそうにしていたのはすごく嫌だったけど、目の前で見せてくれる内面もタイプなのは間違いない。

こう、ずっと押されるとわたしは『うん。』と言ってしまいそうな気がして・・。


すると俊くんはまたわたしの左手首を掴んだ。



『夜、電話する。』

そう言って手を離した。


わたしは何も言わず黙って頷いて歩き出した。

原口さんの方に暫く歩くと姿が見えた。

原口さんはタバコを吸いながら岩場で何かを見ている友美と拓也くんを見ていた。
わたしは何も言わず、原口さんの左側に座った。

原口さんはおかえり。とだけ言ってタバコの火を消した。


『あの2人、何見てるんでしょうね。』

わたしは友美と拓也くんのほうを見て、笑いながら言った。

『カニかイソギンチャクってところだろ、たぶん。』

原口さんも笑いながら言った。



『原口さん、さっきのこと。やっぱり時間もらっていいですか?ちゃんと考えます。』

わたしは原口さんの方を見て言った。

原口さんはこっちを見てわかった。と言ってくれた。

俊くんと話していたことだって気になっていただろうけど、原口さんは一言もそのことについて触れてこなかった。

言いたくないということがわかっていたかのように。



暫くして2人が戻ってきたのでわたしと友美はシャワーを浴びて着替えて拓也くんの車で音楽をガンガン鳴らして帰った。


俊くんは夜電話するという約束を守って電話をしてきていたようだけど、わたしはちょうどお風呂に入っていたので出ることができなかった。


かけなおすのが普通だけど、何を話せばいいかわからず、気まずい言葉を聞きたくなかったし、流されたりするような気もしたのでそのままかけなおさなかった。



長い、激動の2日間が幕を閉じた。
わたしは決断するまで俊くんと原口さんとは連絡は取らないことにしていた。

もちろんメールも。


原口さんとはバイトでは会うけど、極力あの話はしないというか、必要最低限の会話をする程度にしていた。

沢村さんにも話すと睨まれることだし。

沢村さんは原口さんの気持ちを知ってたからわたしをライバル視したり冷たくしたりしていたのかなと思った。

気付いていたことがすごい。

さすがは2こ上。年の功。



あれからずっと考えていた。

俊くんと原口さん。

どっちも魅力的。

俊くんも原口さんも外見はそこらの芸能人よりはよっぽどかっこいい。

俊くんは話上手。

原口さんはすごく優しい。

選ぶ立場と思えば嬉しいことなのだが選べないのが現実だった。

友美に相談したら

『目を閉じてパッと思い浮かぶほうが気になる方じゃないの?』

と言ってくれた。

でも目を閉じてパッと浮かぶのはどちらでもなかった。

というかまだまだ浮かばなかった。
わたしは毎日のようにバイトに行き、仕事をこなした。


今日はあれから初めて、原口さんと同じ時間から仕事で同じ時間にあがりだった。


原口さんと帰るとき、一緒には出ないでおこうと思っていた。

この日も沢村さんに邪険にされながらも無視して仕事をこなし、あがって携帯を見た。


あれから毎日俊くんから返事はしていないのにメールが来ていた。

内容はたわいないことばかり。

今日の出来事や、おすすめの映画など。

告白の返事をせかすような内容はまだ一度もなかった。

今日も来てるだろう。と思って携帯を開くと新着メール4件。


うち1件は俊くんだったけど、その中に原口さんからのが1件あった。

残りは友美と学校の友達。



原口さんからのメールの内容は【仕事終わったら新垣ちゃんの原付のところで待ってて。】だった。

わたしは待つか待たないか相当悩んだが、やっぱり待たずに帰ろうと思った。

まだ、答えは出せない。

そう思って。



でも外に出ると原付のところに原口さんが立っていた。

遅かった・・。

わたしはしょうがなくお疲れ様でした。と挨拶をした。


『新垣ちゃん、今日ちょっとだけ時間ある??』

なにもなかったけど2人になると流されるような気がして断ろうと思っていた。

『用事はないけどまだ・・。』


そう言うが原口さんは返事は聞かないから!!とか言ってなぜか引き下がらず、どうしてもというのでわたしは原口さんの車に乗ってどこかへ出かけることにした。


車の中では今流行っているCDが流れていた。

それを口ずさみながら原口さんは運転していた。

わたしはその歌と原口さんの歌声を横でずっと聞いていた。


そして30分ほどして到着したのは山の上の天文台だった。

『もうすぐ流星群が流れるらしいから。』

そう言ってもっと高いところにわたしたちは移動した。
そういえば朝、理沙ちゃんが流星群とか言っていたのを思い出した。

このことだったんだ。

そう思いながら最初はあんなに気まずいと思っていたのにウキウキしていた。


この17年、流れ星を見たことがなかったから。

『すっごい見たいです!!見れたらいいなー。』

さっき、断っていたときのテンションとは真逆でかなり張り切っていたのできっと原口さんも驚いたと思う。



わたしたちは高い塔の上の手すりのところで空を見上げた。

結構人はいたものの、大きな塔だったので余裕であいていた。



明日も晴れるのだろう、すごく星が綺麗だった。

田舎ということもあるのだろうけど、星空が夜景のように見えた。


『見れると思うよ。たぶんあとちょっとで始まるかも。テレビが言うにはね。』

わたしたちは上をずっと見上げていた。

首が痛くなっても、見逃すと寂しいので我慢しながら。



暫くして誰かが大きい声で『あっ!!!』と言った。

そしてよくわたしも見てみると流れ星のようなものがちょっと間隔はあくものの、次々に流れていた。



『あ!!見えた!!すっごい綺麗!!』

わたしは興奮して見えるたびに、あっ!!とか言っていた。



原口さんも『あ、あれだ。』など言ってわたしたちはずっと見上げていた。
暫くしてたいぶ見えなくなったと思うと他の人々が帰り始めた。



『俺らも行こうか。』

そう原口さんが言って塔の出口に向かった。


塔を降りるときは急な階段で、ヒールで来ていたわたしにはちょっと怖かったのでゆっくりと降りた。

そんなわたしにすぐに気付いて、原口さんは手を取ってくれた。


『危ないから気をつけて。』

と言いながら。

この気遣いにちょっとドキッとしたけど、わたしは悟られないように平然を保ち、原口さんの手を握って下に降りた。

車まで向かうときに、手を離していいものか迷ったけど、原口さんが離す気配がなかったのでわたしもそのままにしておいた。



車に乗ると、わたしは原口さんの方をみて興奮しながら今日の感想を言った。


『わたし初めて流れ星ってのを見ました!!てか・・流星だから流れ星で合ってますよね??ほんっと感動しました。ありがとうございます、連れて来てくれて。』


原口さんも喜んでくれてよかった。と言っていた。


そしてわたしたちは帰ることにした。

あと少しで着くというころ、

『新垣ちゃん、こんなこと言うのもなんだけど・・、俺は新垣ちゃんを悲しませたりとか、辛いと思わせたりとか絶対しないから。楽しいってずっと思わせる自信があるから。まじ・・好きなんだ。』


原口さんは最後はすっごい照れながら言った。

わたしも絶対顔が真っ赤だったと思う。


『ちゃんと、考えます。ほんとありがとうございます。』

そう答えた。

あぁーーーー!!どうしよう・・・。



バイト先に着いたのでわたしは車から降りてお礼を言った。

ドアを閉めようとしていたそのとき、目が合ってしまった。

沢村さんと。


沢村さんは、駐車場に歩いてきている途中だったので見られてしまった。

別にやましいことはないんだけど顔つきが近くなるにつれて見えるのでその顔を近くになったとき見てみるとすっごい形相でわたしを睨んでいた。
挨拶くらいしようと思い、お疲れ様でした。と声をかけた。

沢村さんは原口さんの車の前で止まり、

『何してるの?』

と怖い表情、怖い声で言ってきた。



わたしはビビってしまって原口さんのほうをチラッと見た。

すると原口さんは運転席から出てきてくれて

『沢村さん、今あがり?おつかれ。』

と声をかけた。


沢村さんはさっきの表情とはまるで違う顔と声で

『おつかれさま。どっか行ってたの?』

と原口さんに声をかけていた。


女優だ・・。

でも、さっき歩いてるときの怖い表情は原口さんにも見られてるだろうに、無意味な人だなと思った。

でも今はチャンス、わたしは逃げ出そうと思い、

『じゃあ、お先に失礼しまーす!!』

と2人に告げて足早に原付のほうへ向かった。



原口さんのお疲れ様。という声が聞こえたが沢村さんからの言葉はなかった。


あ、明日がこわすぎる・・・。



そう思いながらわたしは家に帰った。

家に帰ると理沙ちゃんが純くんと

『流星群見えたんだよー!!!』

と騒いでいたので天文台に原口さんと行ったということを言うと

『あんた・・ずるい。あんないい男と・・。』

と純くんの前でズケズケと言っていた。


『お前だっていい男と見ただろ??』

と純くんが理沙ちゃんに言っていたが理沙ちゃんは完全に無視していた。
わたしは部屋に戻り、電話をかけた。

俊くんに。


俊くんの呼び出し音はレゲエの音楽で初めて聞く曲だった。

その曲を聞いているとすぐに俊くんは出た。


『もしもし。』

ちょっと驚いているかのような声だった。

あの海から一度も連絡していなかったのに電話がくるとは思ってもなかっただろうな。



『もしもし、久しぶり。誰かわかる??』

わかるだろうけど・・・一応聞いてみた。

『咲貴ちゃんでしょ。どうしたの??元気??』

『うん元気。俊くんは?』

『元気だよ。どうかした??』

俊くんは多分返事なのだろうと思っていたと思う。



『いや、別に何もないんだけどたまには電話してみようと思って・・。』

『あ、そうなんだ。』

俊くんは笑いながら言った。


『咲貴ちゃん、今暇なの??会わない??俺、いま家だから暇なんだ。』

わたしは突然の誘いに驚いた。

いや、驚いてはないかも。

困った。


『うーん、ごめん。疲れてて。』

『そっか。疲れてるんだったらいいや。ごめん。』

やっぱり気まずーい雰囲気になってしまった。

『いや、わたしこそ。じゃ、また連絡するね。』

わたしは電話を切ろうと思って言うと

『咲貴ちゃん、答えはまだ決まらない??』

俊くんがやっぱり切り出した。