次の日、約束通りに来てくれた俊。


俊の左薬指にはリングがあった。

同じものなのかな??


『それでは・・・って何か恥ずかしいな。』


そう言いながら俊はぶっきらぼうにわたしの左手を取り、指輪を薬指に入れた。

前に5号だよ!!って言っておいたからかサイズはぴったり。


わたしははめられた指輪を見て感動した後、指輪を外した。

友美のように裏に字が彫ってあるかなと思って。

そのときの俊の反応がウケた。


『おいおい・・すぐはずすのかよ・・・』


って焦ってたし。

裏には”All of me is you”と書いてあった。

確か・・・わたしの全てはあなたという意味だった。


俊はそれを見て恥ずかしそうにしていた。


『俊、ありがとう。ほんっとに嬉しい。大切にする!!』


『おう。』


一言だけ言ってソッと自分の左手の薬指を隠すような仕草をしていた。


俊にも書かれてるのかな??


『ねぇ、俊のも見たい!!!』


『はぁ!?ダメダメ。見せない。』


『えぇー!?なんでー!?なんか変なこと彫ってるんだ。もういい。』


わざと見せてくれるように怒ったフリをしていた。


俊はため息をついて指輪をはずし、見せてくれた。


”There should be SAKI”


どういう意味??
『ねぇ、これ何て意味~???』


『咲貴はバカですって意味。』


『絶対嘘。もういいもん。俊はやっぱ変なこと書いたんだ。』


そう言ってわたしは指輪を見ていた。


するといきなりギュッと抱きしめられた。


『咲貴がいればいい。って書いてある。』


そう言ってわたしにキスを何度もしてくれた。


唇は交互に何度も重なった。


わたしも俊がいればいいよ。

俊はわたしの全てだよ。



約束のもの、覚えててくれてありがとう。
『ねぇ、2回だよね??』


『え?俺1回しかイッてないよ??』


パコッ


『バカ・・』


わたしはバカと発するのと同時に軽く叩いた。


『で、なにが2回??』


『ブレーキランプ5回点滅。昨日で2回目だよね??』


すると俊はクルッと後ろを向いた。


ハハーン・・・。


『俊くん?何恥ずかしがってるのかな??』


わたしはニヤニヤして俊の耳元で言って顔を覗いた。


俊はやっぱり恥ずかしそうな顔をして顔を赤らめていた。


『だって・・・お前、好きって言ったろ。歌詞。』


『覚えててくれたんだね。俊のそういうとこ、大好き。』


そう言うとまたこっちを振り向いてくれてギュッと抱きしめてくれた。



『ねぇ、わたしたちだけの合図決めようよ。なんかないかな??』


『絶対嫌。恥ずかしくて出来ねーよ!!俺、ブレーキランプも二度とやらねー・・・』


『なんで!?感動したのに・・・』


『感動は1度でいいんだよ。2度も気付いてたなんて・・・。まだ気付いてないと思ったからやったのに・・まんまとハメられた気分だ。』


俊、変なとこにこだわるんだよね。

それがおもしろいけど。


『じゃあ指輪にキスしてよ。これくらい一般的でしょ??』


『いつするんだよ。絶対しねー・・・。』


もう最後は俊は半分呆れていた。

わたしは唇をとがらせて膨れていた。
それから季節はすぎ、桜の舞い散る季節。

わたしは大学に入学した。



大学ではすぐに同じ授業での友達が出来て、サークルにも入った。

女だけの大学だというのにサークルは他の大学と一緒だから驚き。


俊に話したら辞めろの一点張りだったけど、いざ辞めようとすると、”友達付き合いも・・大切だから我慢する・・・。”と考えを改めてくれた。

やっぱり俊はわたしのことを1番に考えてくれる。

他にどんないい男がいたってわたしは目移りなんて絶対しないもん!!



大学で出会った直美と麻里恵と綾乃はすごく仲良し。

みんな茶髪でロングヘアの巻き髪やパーマ。



直美は背が結構高くて170センチくらいある。

ゆるやかなパーマをかけていて、キレイ系を目指しているらしい。

ちなみに彼氏いない歴=年齢。


麻里恵は160センチくらいの身長に毎日巻き髪で学校に来る。

おしゃれでラウンジで働いているみたい。

彼氏は今はいないけど麻里恵はモテる。


綾乃も160センチくらいの身長にクルクルとパーマをかけている。

居酒屋でバイトしてる元気な女の子。

綾乃も彼氏は今はいないらしい。


そんなわたしは、大学に入ると髪は真っ黒のストレートにした。

おだんごにしたり、たまに巻いたり、サイドでアレンジしたりと楽しんでる。


サークルは野球関係のサークルに勧誘されて入ることになった。

学生大会とかに男の子は出るらしい。

でも毎週火曜日がわたしたちのサークル活動で、いつも色んなところに遊びにいく。

カラオケもあればボウリングもある。

ドライブもあれば鬼ごっこなんてことして遊んだり。


何人かの人に実は告白されたりもした。

即答で断ったけどね。

そして季節はクルクルと変わって行き、あっという間に夏になった。

高校のときは制服というものがあったけど大学になると私服だから相当お金がかかる・・・。

わたしは大学の近くでアイスクリーム屋さんのバイトをしている。

色んなアイスの種類を覚えられるし、時給もあのカプリよりはよくないけど楽だし人間関係は最高にいいので楽しい。

俊と入れ違いになって会えないときもあるけど・・・。



夏休み。

大学の夏休みは長い。

7月の終わりから9月いっぱいまで休み。


わたしは夕方からはバイト、それまでは俊といたり、美容専門学校に行った友美と遊んだり、直美や麻里恵や綾乃と遊んだりしていた。



そんなある夏の日。

この日、夕方まで仕事だった俊が今日バイトが休みのわたしのところに深刻な顔をして来た。


『俊、今日は知香ちゃんと3人で夜ご飯はおろしうどんだよ。』


いつものようにご飯の話をしていると


『咲貴、俺8月の中旬には引っ越すわ。アパート見つけた。』


『そっか。職場の近く??』


『いや・・・咲貴の大学の近く。1LDKで広いしいいとこなんだ。』


『・・・わたしの大学の近く?』


『うん、一緒に住もうよ。』


俊は少し笑ってわたしの手を取った。


『大学まで歩いて5分くらいなんだ。バイト先からだと歩いて10分くらい。原付だったらもっと早いよ。絶対便利だから。』


『━━・・・でもっ・・。俊の職場は遠いよ。30分はかかる。』


するとハハハッと笑うように


『俺は車だし日焼けも気にしないから。咲貴はいつも紫外線がどうのこうの言ってるだろ。近いと今よりましだろう。』
でも・・・遠くなると俊が渋滞に巻き込まれたりするじゃん。

事故にだって遭う可能性出てくるじゃん。

そんなことを次々と考えるわたしの表情は険しかったんだろう。


『俺は大丈夫だから。ね、いいでしょ??』


『━━・・・うん。俊がいいのなら・・・。』


すると優しい顔で俊は笑みを浮かべた。


『よかった。これでもうずっと一緒にいれる。』




こうしてわたしたちは8月の中旬、少ない荷物を持って大学の近くの4階建てのアパートに引っ越した。

階ごとには2部屋しかない小さなアパート。

でも駐車場もあって、交通の便もいい。

そして何よりも大学が近いのはやっぱり嬉しい。

ここまでわたしを考えてくれる俊にはほんと感謝しなきゃ。



『俊、わたしをいつも優先してくれてありがとう。』


こう言うと必ず俊は照れた仕草を見せる。


そして


『別に。』


とそっけない言葉を残して席を立つ。



可愛い、やっぱり。
部屋も片付き、荷物もだんだん増えていった。

最初はなかったテレビやレンジ、エアコンも部屋に入った。


レンジは知香ちゃんと理沙ちゃんが、エアコンは理沙ちゃんが無理矢理純くんに買わせた。


テレビは前にわたしが使っていた小さいものを運んだ。

3人のお陰で何不自由のない暮らしが出来るようになった。



幸せ。

ここまで思ったのは初めてかもしれない。


朝、ゴハンを作り一緒に食べる。

仕事に送り出した後、家の掃除、洗濯などをして、夕食の準備をする。

バイトに出かける。

帰ると大好きな人が待ってる。



この先も続くだろうこの暮らし。

大切にしたい。


俊と一緒に。
『親に紹介しようと思うんだ。』


きっかけはこの言葉からだった。

そう、俊の。


『え?韓国にいらっしゃるんじゃなかった??』


『いや・・こっちに戻って来るみたい。』


そんな・・・・。

わたしはこのとき、前に言われた純くんの言葉を思い出した。

韓国の方は韓国の方と結婚させたがるという言葉。


黙っているわたしは絶対不安そうな顔をしていた。

それを見て何度も大丈夫だよ。と俊は言った。

絶対に辛い目には遭わせないって何度も。


俊を困らせちゃいけない。

そう思ったわたしは決心した。


『わかった。ちゃんと挨拶する。』


そう言うと俊はホッとした顔でわたしの頭を撫で、ありがとうと何度も言った。


俊は知香ちゃんや理沙ちゃんに付き合った当日に話してくれた。

今度はわたしが頑張る番なんだ。


少しでも日ごろの感謝を返したい。
当日。


わたしたちは空港に向かえに行った。

家族の家は前に俊が住んでいた家の人たちが準備してくれたらしい。

ちゃんと登録も済ませる準備もした。



今日、わたしが一緒にいることは家族の人たちは知らない。

来るのは俊の両親、そして俊の見たことがない弟。


韓国に戻って産んだらしく、まだ小さい弟。

小学2年生らしい。



俊が緊張しているのはわかってる。

強張ってる顔。

あのときと一緒だね。


繋いでる手も心なしか強い。





『俊。』


向こうから女性が俊の名前を呼んだ。

その女性と一緒にいるのは男性と小さな男の子。

きっと・・・家族。



俊はわたしの手を離すことなく、そっちに歩いていく。



『久しぶり。元気だった??』


そう言うと抱きついてきたお母さんに応じるため、俊はわたしの手を離した。


『俊、ごめんね。』


何度もお母さんは謝ってる。


横でその様子を見ながら俊の名前を呼ぶお父さん。

そしてそれを見る小さい弟。



わたしは中に入ることなんてもちろんせず、ただ見つめていた。