みんなに挨拶をしてわたしたちは歩いた。
雨上がりの冷たい風が頬に冷たくあたっていた。
わたしたちは30分間、学校のこと、友だちのこと、バイトのこと、たくさん話した。
『咲貴ちゃん見たとき、あーすっげー綺麗な子きた・・。ってビックリしたよ。』
俊くんはお世辞、社交辞令、どっちとも言える言葉を家の近くで最後に言った。
『わたしも俊くん見たとき、かっこいい人いるなって思ったんだよ。』
わたしもお世辞、社交辞令、どっちとも取れる言葉で返した。
中身のない会話かもしれないけど、こういう時ってこう返すのが正解のような気がして。
30分なんてあっという間で、家に着いたときに番号を交換してそのまま来た道を帰って行く姿をわたしは家の前で見ていた。
家に入ると大学生のお姉ちゃんがけだるそうにタバコを吸いながら
『おかえり。』
と言った。
わたしはお姉ちゃん2人と3人暮らしで、両親は東京に仕事で行っている。
1番上のお姉ちゃんが成人しているということもあり、わたしたちは3人で暮らすということを許可された。
ほんとうは家族大好きの両親だからわたしたちも東京に連れて行きたかったらしいけど全員が断固拒否した。
東京は憧れるけど・・・なんかヤダったもん。
そのおかげで好き勝手やることができるしね。
『理沙ちゃん、禁煙じゃなかったっけ?』
わたしはお姉ちゃんが2人いるから名前でちゃん付けで呼んでいる。
理沙ちゃんは2番目の姉で今大学1年の2こ上。
1番上は5こ上で大学4年生の知香ちゃん。
知香ちゃんも理沙ちゃんもほんとにキレイで美人女子大生って感じだ。
わたしの憧れの2人でもある。
『禁煙?あぁ、純の目の前でだけね。』
そう言いながらまたタバコをくわえた。
純とは理沙ちゃんの彼氏。
同じ大学で背が高くてかっこよく、いかにもモテそうと思うような人だ。
理沙ちゃんは純くんから禁煙しろと言われたらしく、本人の前だけは禁煙しているらしい。
『それよりあんた、高校生のくせにこんな時間まで酒?結構なこと。』
なんだか今日の理沙ちゃんは機嫌が悪そうでいつもは言わないこんなことも言ってきた。
こういうときは関わらないに限る!!
『わたしお風呂先に入るね。』
話をずらしてさっさと逃げた。
まだ知香ちゃんは帰ってきてないみたい。
あぁ、今日は木曜日だ。
あの人に会える日だ。
知香ちゃんは不倫している。
去年の夏休みに知香ちゃんがバイトした会社の上司の人と今だに続いている。
なぜかは知らないが木曜日は彼と会う日らしい。
34歳の人らしいが正直そんな年上のどこがいいのかわたしには理解できない。
理沙ちゃんの彼氏には理沙ちゃんに会わせてって言って家に連れて来てもらったけど、知香ちゃんの彼氏には会いたいとは思わない。
不倫なんて2番目だし、興味がわかない。
どうせそのへんのおっさんと同じだろうし。
理沙ちゃんから逃げたあと、お風呂に入って部屋に行き、一応今日のお礼を言うために俊くんにメールをした。
【今日は楽しかったね。送ってくれてありがとう。またみんなで遊びにいこう。】
そして目を閉じるとお酒と疲れのせいもあり、いつの間にか寝てしまった。
朝、カーテンの隙間からの光がすごく眩しかった。
朝か。
そう思って枕元の携帯を開くと受信メールが1件きていた。
送信先は俊くん。
逸る気持ちを抑えながらメールを開くと
【ほんと楽しかった。また遊びに行こう。また連絡する。】
そっけな・・・。
でもわたしはそういうことはさほどそういうことは気にしない。
そしてメール画面を閉じ、ディスプレイの時計を見ると9:42の文字。
あ~ぁ、やっぱ寝坊しちゃったし。
そう思いながらも急ぐこともなく用意をした。
パンとウーロン茶を口に入れ、身支度をして起きてから1時間ほどして家を出た。
家の前にある公園の桜がキレイに太陽に照らされていた。
うーん、春だな。
こんな言葉くらいしか思い浮かばなかったけどわたしは春が1番好き。
クーラー入れなくても、暖房入れなくても、窓を閉めて布団を着て寝れば一番ちょうどいい季節。
桜も咲き、他にもたくさんの花が咲き、虫もそんなにいない。
絶対この季節が1番だ。
冷たい雨さえ降らなければ1日中心地いい。
季節を感じながらバス停まで歩いているとポケットの中から震えがきた。
携帯のバイブだ。
【おそーい。まだ寝てるんじゃないよね!?お昼までには来てよー!!】
もちろん友美からだ。
それから親指を動かし、カチカチという音をさせながら今来てると返事をしておいた。
そうだ、昨日の友美の話も聞かなきゃな。
どうなったか気になってた。
学校に着くともう3時間目の終わり頃だった。
う~ん、授業中入るのめんどくさいかも。
しょうがなく人気のない校舎裏をブラブラとして時間を潰し、休み時間になって校舎内に入った。
廊下を歩いているときに誰かが『新垣さん、まじかわいい。』と小声で言っているのが聞こえた。
こういうのは目の前で言うか聞こえないように言えよ。
そう思いながらもちょっと嬉しい気持ちだ。
どんな男であっても可愛いと言われて嬉しくないわけがない。
実はわたしは去年の文化祭でのミスコンで3位に選ばれてたりする。
教室に入ると友美がおそーいと言いながら早歩きでわたしの方に来た。
そんな友美を見て
『昨日はどうだったのよ~??』
と猫なで声でニヤけながら言った。
わたしも恋話は大好きだしこうやって冷やかすことだって大好き。
『番号交換はしたよ。ウフフ。てか咲貴こそ~!!俊くんとどうなのよっ!!』
微笑みながら言う友美は嬉しそう。
『あ、そうだ!今日また恵介くんと遊ぶんだけど俊くんも来るらしいから咲貴も一緒に行かない?』
楽しそうに友美が言うが生憎わたしは今日はバイト。
『わたし今日バイトだもん。ごめん。明日なら大丈夫だけど・・』
行きたいけど行けないというのはほんとに辛い。
ほんっとに行きたいのに。
友美の始まりそうな恋を応援したいし、わたしも・・俊くんにまた会いたい。
だけど今日は昨日も休んでたこともあって休み変わってとは言いにくい。
『じゃあ延期してって聞いてみるね!』
楽しそうに言う友美は恵介くんに会いたいって顔に書いてあるようなものだった。
学校が終わるとバスと徒歩でバイト先に直接向かった。
わたしのバイト先はビデオやDVD、CDのレンタルショップ。
小さい店で従業員も店長を入れて全部で13人しかいないけど、自給もいいし、人間関係もまぁいいし忙しくもないから苦にならない。
『おつかれさまでーす。』
わたしは白シャツに黒のスキニーパンツに着替えてレジにいた人に言った。
『おつかれー。』『お疲れ様です。』
そう言った言葉が返ってくる。
そんな大きな店でもないのでカウンターはだいたい2、3人ほど。
わたしはほとんどの時間をいつもカウンターで過ごす。
人間観察好きにはもってこいの場所。
たまに真面目そうな教師っぽいやつがすごいAVとか借りたり、かっこいい今どきの人が熟女ものとかのAVを借りたりすると思わず笑ってしまいそうになる。
『新垣ちゃん、今日なんか楽しそうじゃない?』
声をかけてきたのは2つ上の原口孝浩さん。
わたしの憧れの人。
ちなみに彼女はいないらしい。
『え、そうですかー?学校始まったからかな?楽しいし!!』
寝坊して遅刻したくせに笑顔でこの口はうまく動くなと我ながら思った。
原口さん相変わらずかっこいいな~。
この整った顔はそのへんの芸能人よりよっぽどかっこいい・・
『学校好きとか珍しいね。あ、来週またうちの飲みあるらしいよ!沢村さんに聞いてみてね。』
うちの飲みというのはこのバイト先の飲み会。
幹事、沢村さんかぁ・・苦手なんだよなぁ。
あのライバル意識・・
沢村さんは原口さんと同じで2こ上。
普通の女子大生ですこしぽっちゃり気味。
なぜかすっごくライバル視されていて、話かけたりしてもいつも冷たい。
わたしの予想では原口さん狙いかと。
4時間ほどでバイトは終わり、ロッカーが一緒になった沢村さんに声をかけた。
『沢村さん、飲み会って来週ですか?』
冷ややかな目でこっちを見る沢村さんの考えがなんとなくわかった。
”あーあ、知ってたのか。あなた、やっぱり来るの?”
こんなところだろうな。
『来週の水曜日にするつもり。来れる?』
笑った感じの顔つきはするけど思いっきり目は笑ってない・・
っていうか怖い。
『だ、大丈夫です。よろしくお願いします。お疲れ様でしたー!!』
わたしは思いっきり笑顔でこう言って沢村さんの前からそそくさと逃げた。
お疲れ様って言ってんだからお疲れ様くらい言い返してくれてもいいのに。
そう思うくらい沢村さんは無視だった。
外に出るとだいぶ寒くなっていた。
朝の気温とはすごい違いだ。
制服の袖の中に手をぜんぶ入れて肩をすくめて家まで歩いた。
家までの距離は5分ほど。
いつもは原付で行っているけど、学校から直接の日は徒歩で帰っている。
家に帰ると今日は理沙ちゃんの彼氏の純くんも来ていて、昨日とすごい違いのテンションの理沙ちゃんがいた。
えらい違いだね。
って言ってあげたいけど後が怖いから口が裂けてもいえないけどね。
『咲貴、明日昼からちょっと付き合ってくれない?』
冷蔵庫から麦茶を出して飲んでいると知香ちゃんが言った。
『なんで?わたし明日どっか行くかも。』
明日はもしかしたら友美とかと遊びに行くかもしれないと思って。
だいたい知香ちゃんの誘いはいつもろくなことがない。
前は大学の忘れ物を取りに行かされたり、化粧品の限定品を朝早くから並ばされたり、話題のランチを食べに行ったときに2時間くらい並んだり。
『いや、用事あるならいいの。もしどこにも行かないなら教えて。』
そう言って知香ちゃんは上の部屋に戻っていった。
絶対たいしたことじゃなし、いいことじゃないな・・
そう思いながら友美に明日のことについて聞こうと思い、パパッとメールで連絡を入れてみた。
純くんと理沙ちゃんが下の大きなテレビでゲームをしながら騒いでいたので、よく見てみるとスーパーファミコンだった。
このまえ知香ちゃんが彼氏にPS3を買ってもらったのになぜにまた古いのをしているのだろうと不思議だったが、たぶん理沙ちゃんにはPS3は難しすぎるんだろうという結論をわたしは出した。
昔から理沙ちゃんは機械オンチ。
DVDの録画を頼むといつも映ってないので誰も頼まない。
騒ぐ2人を尻目にわたしも自分の部屋に戻った。
明日は土曜。
まだ寝るのには早すぎる。
そんなときわたしの携帯からHYの曲が流れた。
この曲はグループ設定のない曲。
誰だろうと見てみると俊くんだった。
そっか、まだグループ分けしてなかった。
メールを開いてみた。
【明日、暇?暇だったら俺バイクあるからどこか行かない?】
この唐突な誘いに少しドキッとした。
明日、友美のあの予定はどうなってるんだろう・・??
返事に戸惑っていると次は友美の着信にしている曲が流れメールを開いた。
【ごめんわたしも今帰ったんだ!今聞いたら恵介くんはOKだけど今から俊くん聞いてみるって。また連絡する。】
絵文字のたくさん入ったこのメールを見てわたしはさらに俊くんの返事に困った。
友美の連絡待とうかな、返そうかな・・・。
迷った挙句
【明日、友美が恵介くんと俊くんと遊ぼうって言ってたよ。来ないの?】
とサラリと入れてみた。
俊くんは2人で遊ぶつもりだったのかな?
とか考えるとちょっとドキドキした。
わたしは男の子と2人で遊ぶという経験は元彼と付き合っていたときくらいしかないので久々に違う人となると胸が高鳴る。
しかも相手はあのかっこいい俊くんだし。
それからテレビを見ていて、1時間後くらいに友美から
【俊くんも来るって。夜からしか恵介くんがダメらしいから7時にこの前のカラオケ前に集合になったよ!わたしらはこの前のとこに集合して一緒に行こうね。】
このメールで俊くんが恵介くんにいい返事を出したということがわかった。
わたしは友美に了解。と返事をした後、お風呂に入った。
お風呂からあがって、知香ちゃんに夕方までなら大丈夫だと言おうと部屋に入ろうとしたらわたしの部屋からまた大音量のHYの曲が流れていたのでその曲を口ずさみながら戻った。
【行くことにしたよ。じゃあ昼は?夕方まで遊んでまた夜合流しようよ。】
どこか行きたいとこでもあるのかな?
と思い、知香ちゃんには悪いけどわたしは
【大丈夫だよ。どこか行こう!】
と返事を打った。
そして次のメールで明日のお昼に俊くんが迎えに来るということになった。
1回来ただけで家を覚えてくれているということに少し嬉しくなった。
携帯のアラームで目が覚めた。
時間は朝の10時。
カーテンの奥は眩しい光だった。
シャッ。
カーテンを開くと心地よい春の光に外は包まれていた。
バイクと聞いたから髪を巻いても、セットしてもヘルメットでめちゃくちゃになるだろうと思い、そのままロングストレートで行くことにした。
そしてジーンズに肩の開いたニットを着てパンダにならない程度のメイクをして連絡を待った。
一応知香ちゃんに用事があることを伝えてみた。
『な~んだ、そっか。暇ならあのハマってるケーキ屋さんのケーキ買ってきてもらおうと思ったのに。しょうがないし自分で行くよ。』
とそっけなく言われた。
用事・・・あってよかった・・・。
ハマってるケーキ屋さんは街中にあってかなり人も多いし行くのがめんどくさい。
最初から自分で行けよ!!と思ったけど理沙ちゃんより怖い知香ちゃんにはもちろん言えない。
そして、12時過ぎくらいに電話が来て、家の前に着いたとお知らせがあった。
窓からチラッとみてみるとAT車の大きい白いバイクに乗った俊くんがいた。
わたしはもう一度全身が映る鏡で顔、服と全てチェックして外に出た。
天気は快晴。
暑くも寒くもない、すごくよい天気。
バイクは風を浴びるから寒いかもしれないけど初めてのバイクの後ろだったからワクワクした。
『おはよっ!!かっこいいバイクだね。』
そう言うと俊くんは嬉しそうにありがとうと言ってヘルメットを渡してきた。
うまく結べなくて混乱しているとヘルメットをした俊くんが近づいてきてすごい至近距離でメットを飛ばないように閉めてくれた。
俊くんが乗り、そして笑顔で
『どうぞ。』
と後ろに乗るように示した。
倒れたりしないよね・・??
そう思いながらソーッと乗った。
『じゃあちゃっと捕まっててよ。』
そう言うので肩に手を置いた。
でもエンジンがかかると不安になったのでやっぱり腰に手を回した。
すっごい密着!!
そう思いながらも初のバイクの後ろにわたしは興奮した。