店員
「ホットココアと、ホットのミルクティーをお持ちいたしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ~。」




「バカだよね……。」




 ……信じられなかった。あれだけ嫌っていた人間に、自分の悩みを打ち明けている今の自分の姿が、愛には信じられずに居た。




椿
「…………。」




「わかってる……絶対に報われないって。誰も幸せになんてなれない恋だって……。」



椿
「…………。」




「でも、仕方ないじゃん……亮介じゃないとダメなんだ……アタシ、あの人を愛してる……!」




 店中にその声が響く。隣の席の中年男性は、ミルクを入れたホットコーヒーを混ぜる手を止めてしまった。




椿
「別に良いんじゃないの。」




「…………え?」



椿
「誰が決めたの?間違ってるって。」




「それは………。」



椿
「誰が止めたって諦め切れないんでしょ?てか私からしたら、そこまで夢中になれる程、誰かを愛せる事自体が羨ましい。」




「……みんな反対してる。自分でも絶対に報われないって分かってる。」



椿
「好きなら好きでいいじゃん。」

 


 椿の言葉は真っ直ぐに愛の心に届いた。今まで無理矢理に、この恋に理由や言い訳を付けていた。そうしないと自分の心が折れそうだったから。椿が言ったその言葉が、愛という少女の心を救った。そして椿は続けて言った。




椿 
「誰も味方してくれないんだったら、私が話くらい聞いてあげるよ。」




 今まで誰ひとり、認めてはくれなかった。“この愛が間違ってはいない“ と、そう言ってくれた人は、居なかった。





「………うん、ありがとう。」





 ‘’ 曲げられねぇ生き方があるならそれでいい。もしその途中で辛いことがあったらいつでも来い。誰にも見せられねぇ涙があるんだったら、俺が拭いてやるから。……だから一人で我慢するな。 ‘’






 ・・・あ……。あいつもあの時、こういう気持ちだったのか……。

   なのに私は、その気持ちが理解できなくて………。

   あの時……『ありがとう』って言えば良かったのか………。






 椿は返事をせずに、紅茶を飲んだ。きっと愛には伝わっていなかっただろう……。その時心の中で椿が言った、“ がんばれ “ という秘密の言葉が。
そして二人はこの時、友達になった。誰にも見えない絆の糸が、この時しっかりと………二人の心を繋いだ。