病室に弟から親が来たのは、5分後だった…
不機嫌な両親を見るのは胸が痛かった。
だが、「蓮お姉ちゃん。大丈夫?」と心配してくれる妹がいた。
「大丈夫だよ。」私は弟達の方を見ながら言った。彼らは、下を向いていた。あれは、何か知っているようだった…
「では、立川さん。単刀直入に言わせて頂きます。立川さんは、悪性リンパ腫です…」と先生は言った。
両親は一瞬目を見開いた。だが、すぐに元に戻った。
「生存率は80%です。」と先生が言った。
「80%…」私は呟いた。
「ところで、なんで私達を呼んだんですか?」と口を開いたのは母さんだった。
「それはですね。移植です。」と先生は言った。
「移植…」と父さんが言う。
「はい。」と先生。
「そんなの、私達に関係ないじゃないですか!」と母さん。
「悪性リンパ腫は、血液のガンです。親族にしかできない事です。」と先生が言う。
「私達には、関係ないです。」と母さんが言って、病室を出て行った。その後を追うように父さんも…
私は2人の背中をボーッと見ていた。
「姉さん。俺らは検査するから。」と龍が言った。
他の2人も頷く。
「私も!」と藍も言った。
「ありがと。」私は言う。
「それでは、みなさんには検査に…立川さん。ガン細胞を殺すには、抗ガン剤がありますが、どうしますか?」と先生が言った。
「やります。」私は言う。
副作用が有りますが、と先生が付け足す。
「やります。」それが私の誠意だ。
次の日から抗ガン剤治療が始まった…
こんなの楽勝でしょ!なんて思った自分に後悔する。
本当に楽勝だったのは、たった1日前の事。
吐き気、発熱、関節痛。はまだ良かった…一番最悪だったのは、髪が抜ける事だ。気付いたら枕が黒い物で覆われていて、手に取るとそれは自分の髪の毛だった…
「姉さん…」と龍達はいつも悲しそうな顔をする。
「大丈夫だから、ね?」私は必ず笑って返す。
そんなある日の事だった…
「蓮お姉ちゃん!」と藍が私の病室に飛び込んでくる。
「藍?どうしたの?」と私は聞いた。
「あのね?…」と藍が半泣きで言った。
その言葉に、私は納得した。
藍が言った事は、
「お兄ちゃんも私も、お姉ちゃんとは合わなかった…」と言う事だった。
そりゃそうだ、だって私は君達の本当の家族じゃないから…
藍の言う通り、私と君達の血が合うわけがない。移植できる事なんてほぼ無いのだから…
「そっか。大丈夫だよ。藍。また、お姉ちゃん藍に勉強教えてあげる。2人で良くなって、お家に一緒に帰ろ?」私は笑顔で言った。
「うん。」と藍は泣きながら言った。
私は藍と叶うことのない約束をしてしまった気がした。
「姉さん…」私はある人たちが病室の外で、私達の会話を聞いてるなんて思わなかった。
次の日、体調が良くなり抗ガン剤の無い1週間がやって来た。私は、帽子を被り小児病棟に向かう。
「藍?」私は病室に入り藍を呼ぶ。
「お姉ちゃん!」藍は私に抱き着く。
「勉強する?」と私は聞いた。
「うん!教えて?」と藍が言う。
「わかった。じゃ、やろうか。」
私は藍の勉強を見ていた。
その頃、龍達は…
「父さん。母さん。お願い。検査を受けて。」と俺は頭を下げた。続いて聖や耕も頭を下げる。
「無理よ…私達の血でも、蓮を助ける事が出来ない。」と母さんは言った。
「なんで?だって家族でしょ?」と耕が言う。
「無理だ。理由は、まだ言えない。」父さんが言った。2人はそのまま藍の病室に向かって行った。
俺達には、出来ない理由が良く分からなかった。
耕の提案で、父さん達を尾行する事にした。
何か分かるかもしれない。
でも、俺らが知るのは衝撃な事実だった…
母さん達が来た。
「蓮。来なさい。」と言われ、私はついて行った。
「蓮。ごめん。」と父さんが言った。
「別に構わないですよ。今だけ、おじさん、おばさん呼びでも良いですか?」私は聞く。
「勿論よ。蓮。」とおばさんが言った。
今まで、私達が仲の悪い演技をしていたのはある理由があった。
それは、私の過去に理由がある。
その理由とは…
姉さんが、父さんや母さんをおじさん、おばさんって呼んでいた。
「龍兄さん。どう言う事?」と聖が言った。
「わかんない。」と俺は言う。
「もうちょい耳すましてみよ?ここカフェテリアだし、近づいてもバレないよ。」と耕が言った。
俺達は、姉さん達の少し離れた所に座った。
「本当にごめんなさい。私が・・・・で、本当の・・・・じゃ無いのに。」と姉さんの声が聞こえる。
「聞こえない。もうちょっと近寄るか…」と俺は言った。
俺達はちょっとだけ近付いた。
さっきより、聞こえる。
「何やってる?」と聞き耳をしていると、背後から声がした。父さんだ…
「ま、お前達も知る事になる。良いよな?蓮。」と父さんが言った。
「勿論。良いよ。全部話す。」と姉さんが言った。
私の本当の名前は、橋瀬 蓮。
私はの親は、立川夫婦の姉夫婦。昔から良くお世話になっていた。
「蓮?おばさん達来たよ〜」と言う母さんの声は今でも覚えている。
「おばさん!」私は良く言っていた。
「蓮ちゃん。久しぶり。」
「大きくなったね。」と言うおじさんやおばさん。
「早く、蓮ちゃんみたいな子が欲しいなぁ」とおばさんは良く言っていた。
そんな頃の事だった。
まだ、私は保育園の年中。おばさん達に第一子である龍が宿った時だ。
母さんが、私と父さんに果物を剥きにキッチンにいる頃だった。
ガタンッと大きく鈍い音がした…
何が起きたのか分からなかった…
母さんが血を吐いて倒れていた。
母さんはそのまま病院に運び込まれた。
母さんは、悪性リンパ腫だった…
ドナーを見つけるために、私は検査を受けた。
結果は…
私の血で母さんを救えるそう思った。
でも、母さんはそんな考えしてなかった。
「やりません。」の一点張りだった。
でも、今ならその気持ちが分かる気がした…
母さんは私の体から血を抜くのが嫌だった。
愛する子供の血で助かるなんて馬鹿げてるとでも思ったのだろうか…
母さんは、半年後に死んだ。
死ぬまで移植は「やらない」と言っていた…