難しい言葉を並べる先生の声が、呪文に聞こえてくる時間。
お弁当食べたあとの授業とかがピークだよね。
…眠気って。
でもね。私は抵抗しないんだ、この眠気に。
眠たいときに寝ちゃうことの気持ちよさ知ってるもん。
逆らうなんてもったいない、このまま机にうつっぷして…
バシッ!
「いっ!」
…と、頭に衝撃がきた。
音からして丸めた教科書で叩かれたんだろう。
頭の左側が痛いことから、叩いた犯人なんてすぐに特定できてしまう。
若干睨みをきかせながら隣を見ると、
頬杖をつき、右手には丸めた教科書を持つ男がいた。
桐山賢治。
今年になって初めて同じクラスになった奴。
寝癖のついた黒髪にクセのない整った顔。
勉強もそこそこできるし、運動もそつなくこなす嫌味な奴だ。
口の端をにんっとあげて、意地悪な顔をする桐山。
「なに。寝ようと思ったのに」
「授業中だろ?寝んなよ」
「3時間目、あんたが寝てたの知ってるけどね」
知らないとでも思った?と私、ちょっと誇らしげ。
でも桐山は動揺するでもなく、
「俺はいいんだよ。バレねぇからな。
おまえの場合は、いびきかいてるから即バレるぞ」
嘘ねぇ私いびきかいてるの??
動揺させるどころか、動揺させられてしまった。
いろいろ恥ずかしくなってきて、私は素早くノートを丸めて桐山の頭をめがけて振りかぶった。
パンッ!と気持ちのいい音が教室に響く。
「もうっ!腹立つなああんたはっ!!」
叩かれた桐山は、乱れた髪を抑えて目をジトッとさせ、頬に汗を流してる。
“こいつやったな“って、顔。
私も馬鹿だよね、感情に任せて。
気がつけば、教室中のたくさんの目が私を見ていた。
黒板の前に立つ鬼は、先程まで呪文を唱えていた人間で間違いないですか?
「新川、放課後職員室に来なさい。」
「はひ…。」
隣でドンマ〜イとニヤつく桐山。
憎たらしい顔…どうしてくれようか。
次寝てたらそのキレイな顔に油性ペンでらくがきでもしてやるかな。
「お前もだからな、桐山。」
「は?」
キーンコーンカーンコーン
タイミングよく鳴ったチャイム。
明らかに私に巻き込まれた桐山はムスくれてて、
私は笑いをこらえるのに必死だった。