頬を伝う一粒の涙は月の光を受け、輝きを見せる。


その刹那、辺りは紅に染まり、鬼の姿を現した娘が紳三郎の身を貪る音だけが響く。


しかし、夜更けの村は静寂のまま。


何故なら村人たちは知っているからだ。


竹林の中で何が起こっているのか。


そして娘の正体も。


流れる雲に月は姿を隠し、雲は光を遮った。


朝になれば鬼はまた娘に化け、獲物がかかるのを夜まで待つ。


残骸は村人によって埋められ、口外されることもない。


紳三郎の行方を知る者は誰もいないことになるのだ。


今宵もまた、鬼は蝶の如く舞い、その身を赤く染めるのであろう……。