学校で…
「愛純。おはよう。」
「あ、陽姫、おはよ…」
「愛純?緊張してる?」
「うん…ちょっと怖くて…」
「そっか…新しい人だもんね…。でも、あたしがいるからね!大丈夫だよ!」
陽姫は小学校からの友達で私の事情を全部知ってる。だからなんでも話せるし、いつも一緒にいてくれる。離婚した時も暴力を受けた時もそばにいてくれた。
「愛純?緊張してるとは言っても顔色悪すぎ。低血圧の方出てるんじゃない?大丈夫?」
「うん…ちょっとね…でも入学式終わったらすぐ帰れるから…」
「じゃあ病院だけよってこ。私もついてくからさ。」
「え、陽姫、それは悪いよ。一人で行けるし、寝てれば治るよ?」
「愛純の具合悪い時は信用出来ないから!てか、迷惑なんてこれっぽっちも思ってないから!」
「ほんと?じゃあお願いします。」
「はいよー!」
病院
ー宮本さーん。宮本愛純さーん。第一診察室にお入りください。
「愛純、一人で行く?」
「ごめん、ついてきてもらっていい?1人じゃ怖くて…。」
「そっか。一緒に行くよー。」
ガラッ
「愛純。久しぶり。1ヵ月ぶりかな?」
「うん…。先生、あのね、今日入学式で緊張してたのもあったんだけど、朝から貧血出てて、あんまり調子良くないから学校帰りに寄ったの。」
「そっか。来てくれてありがとう。そろそろ定期検診の日だったけどね。」
「でも体もたなそうだったから。」
「大丈夫。分かってるよ。今日はあんまり詳しく検査はしないけど聴診と貧血度合いだけ確認して点滴するか決めよう。先に音聞くね。」
……
「うん。音は悪くないねー。瞼下げるよ。」
「うわー、よく我慢してたね。辛かったでしょ?点滴だけしようか。このまま帰っても辛いだけだからさ。するよ?」
「ん…。」
「今目眩あるかな?」
「ちょっと…」
「目眩あると気持ち悪くなっちゃうから洗面器置いとくからね。少し寝てていいよ。
1時間後
「…ず…愛純。起きれる?」
「んっ…」
いやッ、来ないで…あっ、違う。先生だ。でも怖い…
「いやッ、来ないで…ハァハァ…」
「愛純?大丈夫だよ。俺だよ。」
「愛純、平気私もいるよ。」
ハァハァハァハァ
「んっ!」ゲホゲホ
「愛純、深呼吸!息吸って!吐いてー吸ってーはいてー」
「も、無理…」
私の記憶はそこで途絶えた。
意識を失った愛純。どうも最近調子が悪い。起立性低血圧なのはそうだけどPTSDも悪化してるみたい。そっちは心の方だからちょっと難しい。
「愛純…愛純…
あ、愛純!大丈夫?」
「ん…?こうくん…」
珍しいこうくん呼び。愛純は辛い時大抵、こうくんと呼ぶ。
「愛純、辛いな…。さっき意識飛ばしたの覚えてる?」
「なんとなくは…」
「熱は8度。今日はお泊まりかな…。」
「そうだよね…また怒られちゃうな…お母さんにもお父さんにも。」
愛純はいつまでたっても両親から離れることができてない。本当はものすごく離れたいはずなのに。お母さんには私しかいないからって。お母さんと一緒に私も一緒に暴力受けなきゃって。そんなことしなくていいのに。大人は好きに逃げられる。けど子供は居場所がなきゃ逃げられない。今は自分のこと大切にして欲しいのにな…。暴力を受けていることを警察は知っているのに動かない。それは愛純の父親が警察幹部の息子だからだという。警察も本当に役に立たない。
「愛純?今は自分の体のことだけ考えよ。お母さんには俺から電話しておくから。」
「ダメだよ!お母さんに負担かけたくないの。私が入院するって言ったらもっと心配しちゃう。」
「わかったわかった。落ち着け。じゃあ自分でメール1本くらいしとけよ?今日は友達の家に泊まりますとでも入れとけな?」
「うん…。
はぁ…
大丈夫かな…愛純…。ちょっと不安定だし。怖いな。
「浩太先生!愛純は?」
「おお、陽姫ちゃん…
うーん…ちょっと不安定かな。お母さんに連絡するのをすごい嫌がってさ…。」
「うん。だと思うよ。だってこの間色々あったんだもん。」
なんだそれ。聞いてないぞ…
「浩太先生に迷惑かけると思って言ってないんじゃないかな…。それに今日病院来てあんまり起きてないし…。私から伝えるのもおかしいかもしれないけど、今は命に関わることだから言っちゃうね。
ちょうど一週間前くらいだったと思うんだけど、愛純、風邪ひいたんだよね。で、熱あって病院行こうと思ったんだと思うよ。でもその日ちょうどお父さん、おうち帰って来てて、部屋から出る時お母さんが殴られてるの見ちゃったみたいなの。それで冷えピタ貼ってたらしいからすぐ分かったんだろうね。お父さんも。お母さんも。それでまたお前風邪ひいたのかって。どうしてそんなに体弱いんだって。お前がいるから金がかかるんだ。俺の遊ぶ金が無くなるんだって言われたらしい。だから今日も朝、無理して登校したのかな。その日、殴られたらしくて。お父さんがコンビニに行った隙に私の家に逃げ込んできたのね。今お父さんは遊び歩いてるみたいだから家に帰れてるけどまた帰ってきたら帰れなくなっちゃうんじゃないかな。私の家に来る前にお母さんにも迷惑かけないでよって言われたらしくて。」
「そうだったのか。話してくれてありがとう。詳しくは本人に聞くよ。」
「今はっ…」
「分かってるよ。もう少し落ち着いてから。」
「うん。」
実の所は早く聞きたい。でも焦らず愛純が大丈夫な時にタイミングいい時に。そうしよう。
今、何時なんだろう…
足音聞こえないってことは夜中かな…。
はぁ…。
家に帰りたくない…。会いたくないよ…
ハァハァハァ…
あれ?呼吸が…上手くできない。
フーハーハァハァハァ…ケホケホ…ケホケホ…
咳も出てきちゃった…
どうしよう。頭もクラクラしてきた…。誰か助けて…。
ガラッ
「愛純…愛純!起きてたのか。ナースコール押してくれれば良かったのに。呼吸集中して。スーハースーハー。ゆっくり。落ち着いて。大丈夫。俺いるからね。」
ポチ
「宮本愛純が過呼吸と発作。発作止めの点滴と薬、吸入、袋。」
「はい!」
スーハー…ゲホゲホ…ハァハァハァ…ケホケホ…
ガラッ
「先生、持ってきました。」
「うん。ありがとう。愛純?分かる?」
「こ…くん…ハァハァハァ」
「うん。意識あるね。もう少しだけ頑張って。意識保って。点滴さすよ。」
「吸入吸って。上手。少し落ち着いた?発作の方はだいぶ良くなったね。」
ハァハァハァ…ハァハァハァ
「袋。この中で呼吸して。ゆっくり焦んなくていいから。」
スーハー…スーハー…
「上手。どう?だいぶ落ち着いたね。薬飲んじゃおうか。自分のタイミングで飲んで。」
「飲んだ?」
コクッ
「ん。聴診させて。」
「まぁ不整脈気味だけど発作のあとだもんね。気持ち悪いかもしれないけどもう少し我慢ね。すぐ点滴効くと思うから。ちょっと体熱いね。熱も測っとこう。」
ピピピピッピピピピッ
「あら。38.9か。高いね。ダルい?」
「頭痛い…のと気持ち悪い…」
…怖い…こうくんなのに怖い。
「酸素回ってないかな。愛純は鼻のほうがいいんだよね。鼻腔にしよっか。持ってきてもらっていい?宮澤さん。」
「分かりました。あとは必要なものありますか?」
寒い…ガタガタ
「震えてんね。寒いかな。暖房入れようか。一応毛布と湯たんぽお願いしてもいいかな。まだ熱上がりそうだし。」
「分かりました。」
こうくん察してくれた…良かった。暖かくなる…
あれ…目の前が…
「おい!愛純!愛純!起きろ!…」
こうくんのその声で私の意識は途絶えた。