「ただいま。」

仕事を終えて、一足先にマンションに帰ったはずの咲に

声をかけるも…………

部屋から出て来ない。

「………………………………咲?」

ドア越しにもう一度声をかける。

店を畳んでからは、マンションに直接帰って来ている。

彰人とご飯でも行ったか?

不思議に思い、もう一度ドアをノックすると

「……………………………おかえりなさい。」と

泣き腫らした顔の咲が、出てきた。

?!

「どうした!
…………何があった??」

自分の胸に抱き寄せようとすると

両手を突っぱねるようにして……………拒否する。

「他の人のところに………行っちゃうの?
………………咲…………一人になる??」と

ポロポロ涙を溢し続ける。

はぁ??

他の人?

咲が一人?

訳の分からない会話に戸惑いつつも

目の前で泣く咲を、そのままにすることは出来ず

強制的に抱き上げてリビングに連れていく。

「嫌だ!」と暴れる咲は

幾ら小さいと言っても、成人女性なので重い。

「暴れるな!
落っこちるぞ!!」

少し強めに怒ると

いつもなら、暴れることは止めるが…………

今日は、より激しくなってしまった。

「ちょっ……咲!
マジで落ちるから……………………。」

もう一度抱え直そうと顔を見て…………

パニックを起こしていることに気づいた。