コールは、ヴィンセントの様子を見ているが、思ったほどの情報を得られず、高校生活にいい加減飽きてきた。

 周りの男子生徒と気晴らしに喧嘩をしたくとも、強すぎると学校で噂はあっと広まり、誰も刃向かうものはいなかった。

 ヴィンセントに近づけば、素で接してしまうため、ダークライトの気がなくともバレるのを畏れ、中々思うようにも近づけない。

 苛立ちながら午後からの授業をサボろうと昼寝ができる場所を探していた。

 校舎の裏側に来たとき、ベアトリスが木の下に座って本を読んでるのが目に入る。

 ニヤリと笑いながら退屈しのぎにとコールは近づいた。

「よぉ、こんなところで何してるんだ」

 ベアトリスは天敵に会ったように青ざめた。

「いえ、もう教室に戻るところで」

 慌てて立とうとしたが、コールがどさっと隣に腰をすえて、ベアトリスがどこへも行かないように腕を掴んだ。

「まあ、いいじゃねぇか、ちょっと話でもしようぜ。そんなに怖がるなよ。意地悪した俺が悪いんだけどさ、あんたみてたら、ついからかいたくなっちまうんだ」

 ベアトリスは動けずひたすら引き攣って黙っていた。

「お前さ、なんでヴィンセントのこと好きなのに、無視してんだ。ヴィンセントのことでなんか気に入らないことでもあんのか」

 ベアトリスは首を横に振るだけで精一杯だった。

「まあ、あいつは普通の人間じゃねぇからな。あんたみたいなものには理解しがたいんだろう」

 ベアトリスはコールの言葉に過激に反応してしまう。

 怖い感情が吹っ飛び、身を乗り出してコールの話に食いついた。

「えっ、普通の人間じゃない? どういうこと」

「あんたさ、この世の中どういう人間が存在するか考えたことあるか? 国が違えば人種も違うように、もっとそれ以上の大きな人間の分類があるとしたら、どんな存在が考えられると思う?」

 パトリックから聞いた話が突然ベアトリスの頭に浮かんだ。

「天上人、力を与えられた者、普通の者、そして邪悪な者……」

「なんだ、知ってるんじゃないか。へぇ、あんた、もしかしてディムライトなのか」

「ディムライト?」

「なんだ、やっぱりノンライトか。それにしても、よくそんなこと気がついたな」

「あの、ノンライトとかディムライトとかって何ですか? それに天上人ってほんとにいるんですか」

「意地悪したお詫びに教えてやるよ。天使と悪魔は本当に存在するんだぜ。そしてヴィンセントは悪魔さ。ついでにこの俺もな。ハハハハハハ」

「悪魔…… ヴィンセントが悪魔」

 ベアトリスはその言葉であのイメージが頭に浮かぶ。

 不快な空間で見た、黒い野獣の姿。

 真剣に思いつめているベアトリスの顔を見てコールは訝しげになった。普通なら真に受ける話ではない。

「どうした、なんか思い当たることでもあるのか」

「私、沢山の黒い影に襲われたことがある。もう少しで食べられるかと思った。でも黒い野獣が現れて助けてくれた」

 ベアトリスは独り言のように呟いた。

 コールはその言葉にはっとした。

 何かを言い出そうとしたとき、突然アンバーが現れ邪魔された。