「君、僕に見られていることにぜんぜん気付かないまま、夢中になって読んでくれていた。だから余計に嬉しくて」

恥ずかしさで顔の温度がみるみる上がっていくのが分かった。
まさかずっと眺められていたなんて思いもよらない。

私はパッと男性から目を逸らした。

「あ、怒らないで。本当にごめん。ただ本当に嬉しかっただけなんだ。悪気とかはなくて……」

私が目を反らしたことを拒否と受け取ったらしく、男性は慌てて弁解し始める。

「僕は篠崎優人、高校三年生。来年この大学に入学したくて、オープンキャンパスに来たんだ。それでこの図書館に寄って、君を見つけて」

私がゆっくりと視線を戻すと、彼は私の機嫌を伺うような顔でこちらを見ていた。

「本当にあなたが書いた本なの？」

信じられない気持ちでたずねた。

目の前にいる彼は私と同じくらいの年齢か、それよりも下に見える。
からかわれているだけだろうか。

「そうだよ。それは僕が書いたんだ。ノンフィクション作品なんだよ。出てくる場所も人も実際にモデルがいる」

そう言われて、本の印象がだいぶ変わった。
内容を思い返すと、胸がドキドキし始める。

これが現実に起きた話。
本に登場したは実在する。
そして彼に愛されていた彼女が実際に存在する。

本の中に登場した彼女のことを羨ましく感じて、興味が沸いた。